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船内へいるように、と言われていたが聞こえてくる怒号と揺れ続ける船にはやる気持ちを抑えきれず、少しだけ船外を覗こうと扉を開けた瞬間、それは飛び込んで来た。
飛び散る真紅と少年の白い貌が鮮やかなコントラストを出し、まるで一枚の絵画のように美しかった。
ぼんやりとそれを眺めていると、彼のブルーグレーの瞳がこちらを見た。
――セ、シリア・・・。
ゆっくりと微笑んだ彼は7年前のまま、優しく少し儚かった。
「レイル――――!!」
笑んだままゆっくりと崩れ落ちていく少年を何とか支えなければ、と思うが凍りついたように体が動かなかった。
鈍い音を立てて倒れるとそのままぐったりと動かなくなる。彼から血が流れ出るのが遠目でも見て取れた。
「あ・・・あぁ・・」
ガクガクと足が震え、セシリアも力が抜けたようにその場にしゃがみこむ。海賊達が襲い掛かって来る姿を目の端で捉えたが、脳が麻痺しているのか全く危機感を感じなかった。
絶望だけが彼女を支配し、視界がどす黒く塗りつぶされたような錯覚に陥る。
血塗れた剣が揺れるのを見てもまるで他人事のようで。このまま刺されてもいい、とまで思っていた時だった。
「ふざけんなよ!オレに説教した女がここで殺られるタマか!?」
背後から突如突き出された剣により海賊のそれは弾かれ、次の瞬間には倒れ臥していた。
二の腕を痛いと感じるほど強く掴まれ、そのまま引っ張り上げられるようにして立ち上げられた。
「・・・え・・?」
「おら、自分で立てるな」
「・・・分かった・・これ、夢ね。あなたがここにいて私を助けてくれるはずないもの・・夢だわ・・レイルが・・死ぬわけないもの」
ぼんやりと今だ焦点の定まらない目で見上げてくる少女に紅目の海賊王は小さく息を吐くと彼女の頬を打った。
鋭い痛みでようやく視界が開けたセシリアは何が起こったか分からないように辺りを見回した後でゆっくりと海賊王を仰ぐ。
「・・ルキア・・・!」
「やっと正気に戻ったか・・あんたは船内に隠れてろ、後はオレがやる」
「そんな・・一人じゃ無理よ・・!」
「一人じゃないぜ、嬢」
懐かしい名で呼ばれ、反射的に振り返った先には見慣れた顔が揃っていた。
「皆・・!どうして?」
「今は説明してる場合じゃねぇ。行くぞ!」
セシリアから手を放し、戦場へと飛び出していくルキアに続いて行く海賊達は少人数だが酷く逞しく見えた。
「あ・・ルキア・・レイル・・!」
「大丈夫だ」
少年特有の高い声色にセシリアは泣きそうになった。この戦場に最も相応しくないと思われるあまりにも脆弱な少年はしかし自分よりも年上の少女を気遣わしげに見る。
「ルキア達はこんなところでやられたりしないし、あのレイルとか言う海軍も・・死んだりしない」
「うん、うん・・・そうだよね、レン君・・」
「ここは危ない。船内に行かないと」
そっと華奢な手に促されるが、セシリアは頑なに首を横に振った。
「駄目・・・戦いに目を背けたらいけないの、私は・・見届けるって言ったんだから」
「でも、ここにいても・・」
「分かってる・・足手まといだって・・でも・・それでも私は・・・!」
海賊達が二人を見つけて迫って来る姿にレンは慌ててセシリアの手を引いたがそれでも少女は動かなかった。
いつまでも逃げてばかりだった。レイルを取り戻す、なんて言っても本当は彼からも逃げてばかりだった。海賊に憧れなんて抱いて、現実を知った今恐れる事しか出来ないのか。
いつもいつも守られてばかりで迷惑ばかりかけて。ドレスを脱いでも宝石を捨ててもいつまでも貴族のお姫様を脱げ出せずにいた。
先程の海賊の落とした剣を拾う。酷く重く感じ、両手でしっかりと握る。
これは命の重みなのだ。人の命を奪う道具・・だけど同時にそれは守る道具にもなる。
「これ以上・・もう・・」
汗がじとりと滲み、剣を取りこぼしそうになるのを必死に耐える。
船内へ敵が入ってしまえば勝負は見えている。それだけは避けなければいけない。
大切な人を守るために、これ以上傷付けさせないために―――もう逃げたくない。
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