長い話を終えてセシリアはホッとしたように胸を撫で下ろしたが、対照的にルキアは不機嫌そうに血色の目を細めた。

 きょとんとしている少女に溜息を吐きながら片手で頭をガシガシと掻く。

 「・・・もしかしてオレ、のろけられた?」
 「は!?今の話のどこがのろけだったのよ!」
 「最初から最後まで。あいつとの馴れ初めから別れまでだろ?」
 「なっ・・・!?」

 あからさまな物言いにセシリアは顔を火照らせながら必死に否定の言葉を言おうとするが、口から出るのは意味のないものばかりだ。

 「今の話がどうしてそうなるのよ!?」

 ようやく文章として言葉が出た頃には随分時間が経ってしまっていた。海賊の少年は待ちくたびれた、と言う風に眠たそうに目をこする。

 「あんた気付いてないみたいだけど、あの男が好きなんだろ?今の話は全部そう言う事だろ」

 あの男がレイルを指しているとすぐに分かったが意味が分からなかった。ルキアは一体何を言っているのだろう。

 「私はただ、レイルに罪を犯させたくない、昔に戻って欲しい一心で・・」
 「で、あいつのためにオレ達海賊の仲間になったわけだ。随分思い切った事だよなぁ・・全て、男のためだろ?」

 ルキアが怒っている、と感じるのは気のせいではないとセシリアは確信したがなぜ怒るのかが分からない。元々婚約者が嫌だと言う理由で仲間になった彼女なのだから今更理由がどうあれ彼の不況を買うとは考えていなかったのだ。

 一歩ずつ音もなく近付いてくる海賊に少女は息を呑みながら、しかしどうする事も出来なかった。

 「・・ル、キア?」

 自分より背の高い少年を自然と見上げる形となる。怒りに彩られているはずの燃えるような瞳は予想に反して戸惑うように揺らめいていた。

 「ルキア・・・?」

 もう一度確認するように呼びかけると突然二の腕を勢いよく掴まれ、華奢な少女の体は悲鳴を上げた。
 だが、そんな事も気にしていないのか気付かないのか、ルキアは力を緩めようとしない。

 「痛いっ・・放して・・!」
 「わりぃ・・・っ」

 痛みに涙を浮かべる小さな少女にルキアはようやく手を放すと驚愕に目を見開きながら彼女と距離を取った。

 ようやく解放されたセシリアは痛みを訴える腕を擦りながら目の前で凍りつくルキアを見やる。

 「・・・どうしたの?」

 恐る恐る問うと、返事の代わりに返ってきたのは盛大な笑い声であった。

 深刻な顔をしていると思ったら突然笑い出す海賊の行為にセシリアはひたすら頭に疑問符を浮かべていると、ようやく笑いが収まってきたルキアが腹を押さえながら、

 「ちょっと思い知って・・」
 「・・・何が?」

 再びこちらを見る彼の瞳にもはや冷たい色はなく、セシリアはようやく体の力を抜く事が出来た。
 ルキアは最後に大きく息を吐き、笑い疲れた、と背後にあったベッドに身を投げ出した。

 「・・最初は好奇心だったんだぜ?一応オレも女には困ってなかったんだけどなぁ」
 「だから何が?」
 「そうかな〜とは思ってたんだけど、やっぱりかぁ・・」
 「聞いてる!?」

 セシリアの事は全く無視である。内容も掴みどころがなく、一体何が言いたいのかがさっぱり理解出来ない。

 「あの男が出て来て自覚ってのは癪だ・・・」

 再びブツブツと独り言を始めるルキアにセシリアは痺れを切らせてスカートである事も構わず大股でベッドまで行く。
 そして寝転がる少年を今度は上から見下ろす形で睨みつける。

 「さっきからブツブツ・・一体何なのよ」

 セシリアの怒りにようやく体を起したと思ったら今度は手首を掴まれる。先ほどのような痛みは感じないが、思わず体が強張ってしまうのは止められない。
 不安げな少女に口元を緩めながらそのまま掴んだ腕を自分の方へと引く。

 「!?え・・」

 自然と少年の方へと倒れ込む形となり、慌てて体勢を戻そうとするが、ルキアは背中に手を回しそれを留める。

 「ちょっと、何を――」

 文句を言おうとしたが、直後耳元で囁かれた言葉に思考回路が停止した。

 「―――好きだぜ、セシリア」











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