7年前のあの日、僕の心は壊れてしまった。









 眠ってしまったレイルを必死にベッドへと運ぼうとするが、華奢とは言えやはり相手は男で簡単に運べるはずもなかった。

 だが、このまま床に寝かせるわけにもいかず、必死に彼を引きずっていると、驚いたような声が飛び込んで来た。

 「セシリアさん!?一体どうしたんだい!?」

 扉を開けっ放しにしていたせいか、騒ぎを聞きつけたユーシスが駆けつけて来たのだ。

 セシリアはこれで大丈夫だと息を吐き、ユーシスに理由を説明すると彼は楽々とレイルを持ち上げてベッドへと寝かせた。


 「良かったです・・ユーシスさんが来てくれて・・私一人でどうしようかと思っていました」
 「一体レイルはどうしてこんな事に・・・?」

 眠るレイルの頬には涙の跡がある。ただ事ではないと思ったのだろう。

 セシリアはどう説明すればいいのか悩んだ。彼女自身、レイルがどう言う状況なのかしっかりと把握出来ていなかったのだ。


 迷ったが、ユーシスのレイルを心底心配する眼差しを見ている内にようやく決心する事が出来た。

 「・・・私とレイルが幼馴染である事は知ってますよね」
 「え?はい」

 突然何を言い出すのかと目を丸くしたが、彼女の顔があまりにも真剣であったから、ユーシスも表情を引き締めた。

 「昔はとても仲が良くて・・レイルも凄く優しくて素直で・・・あの日までは」
 「あの日とは・・まさか・・」
 「はい・・・レイルのお母様が殺された日です」











 いつものようにその日もレイルはセシリアの家に遊びに行っていた。レイルとセシリアの父が二人とも遠出をしていてお互い暇をもてあましていたのだ。

 「いらっしゃいレイル!!」

 執事に案内されて通された部屋に入った瞬間、弾んだ少女の声が耳に飛び込んで来た。
 軽いウェーブのかかった珍しい銀髪を可愛らしくリボンで結んだ幼馴染は本当に嬉しそうに顔を上気させてレイルに抱きついて来る。

 「聞いて聞いて!面白い本を見つけたのよ!」
 「リア・・苦しいってば〜」

 10歳の二人はセシリアの方が頭半分背が高く、体格も大きい。抱きつかれて、華奢な少年は苦しげに呻いてセシリアの背中を軽く叩いた。

 「お嬢様、レイル様が潰れてしまいますよ」

 セシリア付きのメイド、ソフィアが苦笑すると、セシリアはハッとしたようにレイルから離れた。
 ゴホゴホと咳き込む少年に少女は申し訳なさそうに眉を寄せる。

 「ゴメンねレイル。あんまり嬉しかったものだから・・」
 「いいよ、そんな。で、面白い本って何?」

 一気にセシリアの顔に明るさが戻るのをレイルは面白そうに見ていた。本当に彼女は単純なのだ。そこが可愛らしいのだけれども。

 「それがね!海賊の物語なのよ!一緒に読も!」
 「海賊?海軍じゃぁなくって?」
 「海軍の本なんてもう飽きちゃったもの」

 少年は溜息を落とした。自分も少女も、父親は海軍のトップと言っていい地位にいる。その自分達がよりにもよって海賊の本を読むなんて。

 ソフィアも困ったように笑いながらも咎めはしない。それを見てレイルも納得したように、

 「それで、どんな話なの?」

 彼女に付き合う事にした。これで怒らせると自分にとばっちりが来る事は必至なのだ。もう泣かされたくはない。

 「えっとね・・・」

 今は彼女の嬉しそうな顔を見るだけでいい。






 数時間後、二人が仲良く本を読んでいるとソフィアが部屋に入って来てレイルに声を掛けた。

 「雲行きが怪しくなってきました。どうやら嵐が来るようです。そろそろお屋敷に戻られた方がよろしいかと」

 外を見ると本当にどんよりとした雲に覆われて、今にも泣き出してしまいそうだ。遠くでは雷が鳴っているのか時々光っている。

 「え〜!まだレイルといるー!」

 不満そうに頬を膨らませるセシリアにソフィアが母のように優しく諭す。

 「レイル様がお風邪を召してもいいんですか?我侭を言ってはいけません」

 俯く少女に優しく微笑んで、場所を用意致しますと部屋を出て行くメイド。
 すっかりしょげてしまった幼馴染をレイルは励ますように微笑んだ。

 「明日も来るから・・・ね?」
 「絶対よ!?まだ本、読み終わってないんだからね!」
 「うん」
 「約束ね!」


 大きく手を振る少女に振り返しながら馬車に乗り込む少年は、この時明日も当たり前のようにいつもの日常が続くと信じていた。

 まさかこの約束を果たす事が出来なくなるとは思いもよらなかった。











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