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12
「ルキア?」
いつも余裕を絵に描いたような海賊王の動揺にセシリアも仲間の海賊達も不思議そうに彼を見ると緋色の瞳は戸惑いに揺れていた。
「・・この船はリオール王国に向かうのか?」
「ああそうだ」
食い入るような縋るような眼に少しも怯む事無くレイルが実に艦長らしい顔で一言だけ言うと、ルキアはそうか、とだけ呟いて何か考え込むように俯いてしまう。
尋常じゃない様子にレンが不安げに声をかけても返事すら返ってこない。
「ねぇ、本当にどうしたの?何かリオール王国にあるの?」
「あります」
返答は質問を受けた少年のものではなく、少年に忠誠を誓う青年、アフツァルのものであった。闇の中に溶け込むような長い黒髪と同色の瞳は変わらず鋭さを有しており、目が合ったセシリアは思わず息を呑む。
彼に嫌われている自覚がある、今まで目を見て話した事など数えるほどしかない。
威圧感に耐えられなくなったセシリアが目を逸らしても構う事無くアフツァルは無表情に口を開いた。
「リオール王国の出身者はレンだけではありません・・・私と王もその国の出です」
「アフツァル!」
声を荒げて青年を咎めるルキアは酷く焦っているようにも見えた。やはりどこかいつもと違い、余裕がない。
少年が必死に目で止めろ、と訴えているのを知ってか知らずかアフツァルは続ける。
「王・・・あの国はもう王国と呼べるものではありません」
「・・・え?」
呆気に取られたような声はルキアから。意味を掴みかねる、と言った表情でアフツァルを困惑気味に見やる。
「それはどういう事だ」
「リオール王国は今海賊に乗っ取られている状態だと聞いています」
海賊、と言う単語にレイルとルキアが目を見開いたのはほぼ同時であった。対を成す青と赤の瞳が大きく色づく。
セシリアは一度に色々衝撃を受けすぎて対応しきれなくなっていた。レイルの敵の海賊はリオール王国にいる。と言う事は国を乗っ取っている海賊と言うのは――
「詳しく話せ」
レイルも同じ事を思ったのだろう。はやる気持ちを隠しもせずアフツァルに詰め寄る。誰もが簡単に情報を渡したりしないだろうと思ったが、意外にも青年は簡単に口を割った。
「3ヶ月ほど前でしょうか、リオール王国に海賊が乗り込んできました。内陸国である我が国では稀な事・・ろくな抵抗も出来なかったと聞きます」
「なぜ海賊が・・・?」
「奴らは隣国で海に面しているバルム王国を侵略して我が国にも乗り込んで来たようです」
海賊が一国を支配するなんて話は今まで聞いた事がない。バルム王国がいかに小国と言っても考えられない事だ。
それだけその海賊が大規模で戦術に優れているのだろう。
「今では国の半数が奴らの手に落ちた、と。・・・王族の安否も分からない状態のようです」
最後の方はルキアに向かって言ったようであった。海賊王の少年が肩を震わせるとサッと影を落とした事にセシリアだけは気付いていた。
――ルキア・・・本当にどうしたというのかしら。
心配に思うものの声をかけられる雰囲気ではないので見守る事しか出来ない。そうしている内にアフツァルは話終え、嫌な沈黙が辺りを覆った。
それぞれが物思いに耽っている状況で、沈黙に幕を下ろしたのは無口な少年艦長であった。
「お前は・・なぜ簡単に情報を教えたのだ・・何を企んでいる」
何の見返りもなくこうもたやすく話すのは必ず裏があるからだ。だが、その裏が何であるのか全く見当もつかない事がますます怪しく思える。
「別に何も企んでいません・・・私はただリオール王国へ行きたいだけです」
「リオール王国へ行きたい・・・?なぜだ」
「用事があるからです」
「お前達は囚われの身・・例え国に行ったとしても外へ出る事は出来ない」
男は口元に笑みを乗せる。
「いいえ。あなたは我らを牢から出します・・いえ出さざるをえないのです」
「何・・・?」
「リオール王国へ向かう目的はその海賊であると推察します・・・となると、あなた方海軍でもあの海賊を捕らえるのは容易ではありません・・必ず我らの力が必要となります」
レイルの目が鋭くなる。海賊を見る時のそれは横から見ていても悪寒が走るほどである。
「・・力を過信しすぎだろう・・海賊風情が・・」
「ただの海賊ではありませんから・・リオール王国には我らの支援者が多くいます。皆、王のご命令に従います」
「・・何が言いたい・・何を隠している・・?」
確信に迫る言葉に誰もが息を呑む。これからアフツァルの言う事がとても重要で驚くべき事である事は誰もが察していた。
青年はルキアを一瞥すると、
「王は王だと言う事です」
静かに言う。
「王・・ルキア様はリオール王国の正統な王位継承者、ルキア王子であらせられます」
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