序
7年前のあの日、全てが狂ってしまった。
泣いて笑って、毎日明日が来る事が当たり前だったあの頃。
”また明日”
そう言って分かれた時、僕は思いも寄らなかった。明日なんてない事を。
悲鳴は激しい雨と雷とに打ち消された。
幼い僕はあなたが揺り起こすまで気付きもしなかった。
あなたの涙を知った時はもう全て遅かったんだ。
”殺しなさい、レイル!!!”
初めて怒鳴ったあなたを見た。
あぁ、どうしてあなたは僕にそんな事を言ったのですか。そんな事、出来るわけがないのに。
そう―――僕には出来なかったんだ。
泣いて震える事しか出来なかった弱い弱い子供だった僕。
手に持った剣が地に当たりガタガタと情けない音を出すのをただ聞いている事しか出来なかった。
”お前は弱い”
鋭く言った奴の目を忘れる事は一生ないだろう。
奴の言った通りだ。だから奴を睨みつける事も出来なかった。去って行く背に手に持った剣を突き刺す事も出来なかった。
ただ、死にたくないと血の海の中で、もがく事しか出来なかった。
あなたの目に光が消えていき、握った手が冷たくなっても僕はひたすらにもがいていた。
もがいてもがいて意識が遠退きそうになった僕の手を掴んでくれた者がいた。
”レ・・・イル・・?”
どうか君だけはそんな目で僕を見ないで。血塗れて穢れた僕の体。
だけどそれは僕の罪だ。何も出来なかった僕に与えられた罰だから。
だから決めたんだ。絶対に強くなると。
だから大切な君も置いて父の牢獄に入ると決めた。
あの日から7年。やっとここまで来る事が出来た。
震える事しか出来なかったあの頃とは違う。今なら憎い奴にも向き合える。
振り返ると涙にくれる君がいる事は分かっている。だけどもうどうする事も出来ないんだ。
もうこの手はあの頃には戻れないから。どんなに洗っても染み付いた穢れは取れない。
穢れた手では君を抱くには相応しくないだろう。だからもう会わないつもりだった。
でも僕はどうしようもなく卑怯だから。君が他の誰かのものになるなんて耐えられなかった。
僕では君を幸せにする事は出来ないと分かっていたのに。
でも僕は忘れていた。君が簡単に従うような女じゃない事を。
僕は変わってしまったけれど、君だけはどうかそのままでいて。
7年分の恨み、今だ消えず。日を追うごとに増すばかり。
君の泣き声ももう僕には聞こえないんだ。
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