その場に現われた人物にセシリアはもちろん、アッシュも驚愕のため、声をなくした。


 「・・・グレイン・・!」

 彼の名を口に出したのはセシリアを背後から押さえ込んでいる海賊の男であった。
 それを間近で耳にしながらセシリアはグレインと言う人物が彼らと同様に海賊であったのだと改めて認識する。

 しかもグレインはただの海賊ではない。その名を世界中に轟かせ、部下100人を従える大海賊。海賊の中で彼の名を知らない者など皆無なのだ。


 「へぇ〜お前達みたいな雑魚でも俺を知ってるなんて、俺も有名になったもんだなあ〜」

 明るい口調で顔を綻ばせて見せるが、セシリアは気付いていた。

 目が少しも笑ってはいないのだ。笑うどころかそれはどんどん冷たさと鋭さを帯びていき、セシリアは息を呑む。

 グレインはついに形だけの笑顔をも引っ込めて、セシリアから視線を逸らして倒れ臥すアッシュに目を向けた。

 「グレイン・・・」
 「久しぶりだなぁアッシュ。今日はお前に会うためにこの島に来たんだ」
 「俺に?」
 「そうそう。ちょっと欲しい情報入ってないかな〜と思って」

 固まる海賊達など眼中にないのか、グレインは気さくに話しながらゆっくりと踏み出す。


 瞬間、

 「ぐっ・・!!?」

 アッシュを押さえ込んでいた男が鈍い音と共に情けない呻き声を上げてその巨体を地に擦り付けた。

 「!!?」
 「何しやがる・・・!?」

 息を潜めて成り行きを見守っていた他の海賊達がどよめき立つ。グレインはそれを興味なさそうに聞き流すと、向かってくる男達に向き直る。

 「お前達の相手は俺じゃない」

 言うなり彼の背後から部下であろう数人の男が姿を現す。

 その時ようやく彼らは青ざめたが、時は既に遅かった。









 解放されても足に力が入らないセシリアは呆然と座り込んだままだ。グレインは軽く肩を竦めて見せると手を彼女に絡めるとあっという間に抱き上げた。

 「―――!!?」
 「お嬢さんも久しぶりだなぁ。まさかこんな所で会うとはねぇ」
 「あ、あの・・」
 「・・・生きてたんだな」

 恐ろしいとしか感じられなかった瞳に一瞬だけ暖かな光が混じり、溶け合う。


 ――え・・・っ・・?

 目を丸くさせる少女に気付いたのか、グレインはすぐに顔を背けた。

 「アッシュ。お前も立てるかぁ?すげえやられてるみたいだけど」
 「・・あぁ」

 半身を起したときに蹴られた胸元に激痛が走ったが何とかやり過ごした後で、ふらつきながらも立ち上がる。これ以上、無様な姿は見せたくなかった。

 「・・・グレイン、礼を言うよ。助かった」
 「別にお前のためにした事じゃない。それに探し物も見付かったしなぁ」
 「探し物って・・・おい、まさか・・」
 「このお嬢さんだよ。まさかお前と一緒にこの島にいるなんて、さすがに予想もしてなかったなぁ」

 可笑しそうに笑うグレインを見て、いつもはつられて笑うのだが今度ばかりは笑っていられない。

 「どうしてセシリアさんとグレインが・・・・」
 「俺の船から落ちたんだよお嬢さんは。もし生きていたら何かお前のとこに情報でも入ってないかと思ってな」

 それで島に来たんだ、と続けられた言葉をしかし彼は聞いてはいなかった。


 貴族のお姫様であるはずの少女がなぜ海賊船にいるのか。なぜ落ちてしまったのか。


 様々な疑問が脳内を駆け巡っては消えていく。

 困惑しているのが手に取るように分かる。グレインは仕方がないな、と言わんばかりに溜息を吐いた。

 「事情を説明すんの面倒だからしない。それよりこれからの事を話し合うべきだろ」
 「これからの事・・・?」

 アッシュの代わりにセシリアが疑問の意を投げかける。自分の腕の中で縮こまる小さな少女を興味深そうに見ると、突然、本当に突然彼は言った。


 「・・言ったよな、ある海賊を探してるって。・・・アッシュなら知ってるはずだ。この島でも指折りの情報屋で商人だからな」









 見慣れない巨大な船が突然島にやって来たと聞いて人々は海岸へと集まって来る。ろくな港もない島の西側に船が泊まる事は珍しかったので余計に彼らは噂をする。


 野次馬のように船を見に来る人々を船内で忌々しげに見る一人の若い男がいた。

 絹のように柔らかな髪は光を反射して輝きを増す金色、透き通るくらいの白い顔は恐ろしいくらいに整い、海よりも深い瞳は凍てつく氷のように冷たい。

 真紅の軍服と同色の艶やかな唇は不機嫌そうに歪められている。


 「・・・目障りな・・ここが本当にあの島なのか・・・」

 ポツリを呟かれたそれに律儀に返す者がいた。

 「相変わらず不機嫌だね。ここは間違いなくベガス島だよ?」
 「・・・ふん」
 「降りないのかい?いくら目立ちなくないと言っても最初から無理だったんだよ。そろそろ僕は行くよ」

 クルリと向きを変えれば少年も観念して船を降りるかと思ったが、彼に動く気配はない。

 ――ああ、そうか。


 「・・・きっと彼女は生きてここにいる。そう信じるしかないよ、レイル」

 そして今度こそ青年、ユーシスは船を降りるために船外へと姿を消した。


 一人残されたレイルはようやくその秀麗な顔に感情をのせる。


 「・・・セシリア・・」


 本当に君は生きているの?      











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