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クルクルとよく動く大きな瞳は興味深げに光り、じっとこちらを見ている。
「・・・・・・」
「・・・・・・わっ」
目があった瞬間、上げられた声は少女特有の澄んでいて高いものだった。
少女はセシリアが目を開けた事にひどく驚いたようで、わたわたと椅子から立ち上がって再び彼女を覗き込む。
「・・あなた・・?」
セシリアはまだぼんやりとしか覚醒しておらず、目の前の見知らぬ少女を誰だろうとしか思っていなかった。
少女はと言うと、驚きが収まり現われた美しい翡翠に目を奪われていた。
「綺麗・・・お姉ちゃんの目、とっても綺麗ね!」
「・・・?」
最初、何を言われたのか理解出来ずに瞬きしたがその様にも少女は目を輝かせて食い入るように見ている。
どうやら褒められたらしい事だけは分かり、微笑んで体を起そうとしたが激痛が走りそれは出来なかった。
「大丈夫!?どこか痛いの!!?」
あまりの痛みに脂汗が噴出す。シーツをどかして体を見ると、体中に擦り傷や打撲があった。覚えの無い傷にセシリアは困惑する。
それでも何とか心配する少女に微笑んで、再びベッドに身を沈めた。背中も少し痛むので傷があるのだろう。
「私は大丈夫よ・・・ところで、ここはどこなの?」
辺りを見回しても全てが初めて見るものばかり。彼女にはどこかの家の中である事しか分からなかった。
「ここはベガス島よ。お姉ちゃんはベガス島の私達の家にいるの」
「ベガス島・・・」
聞きなれないそれを反芻しても答えは変わらなかった。分かる事は自分は生きていると言う事だけだった。
海に落ち、水を飲み、意識が遠のいて、もう駄目だと思ったがそれでも今こうして息をしている。
「私もしぶといわね・・・」
「ん?何か言った?」
「何でもないわ」
必死に笑顔を作る。助かったのは嬉しいのだが、これではルキア達に会えるかどうかも分からない。グレインの船にいる時はそれほど不安は感じなかったが、今は不安に押しつぶされそうだ。
これからどうすればいいのか。セシリアには目的があった。ある海賊の情報を手に入れる事、そしてレイルに笑顔を取り戻す事。
「レイル・・・」
ルキア達は海軍がすぐ近くまで来ていると言っていた。だが、また離れてしまっただろう。もしかしたらレイルはもう諦めて国に帰っているかもしれない。
ズキリと胸が痛む。
その方が自分にとってもレイルにとっても良いはずなのに。なぜ考えただけでこんなにも苦しくなるのだろうか。
「ルキア・・・レン君・・」
レンはちゃんと食事をしているだろうか、また一人で苦しんでいないだろうか。ルキアは少しくらい心配してくれているだろうか。新入りで何の役にも立たない自分の席をまだ用意してくれているのか。
考えれば考えるほど気分が落ち込んでいく。体が弱っているせいか心まで弱ってくる。
幼い時は熱を出した時や落ち込んだ時はレイルが傍にいてくれた。父は仕事で忙しく、付いていてはくれなかった。一緒に泣いてくれて一緒に笑ってくれたのがレイルだった。
その彼ももういない。自分は一人なのだと思い知る。
だが、
「どこか痛いの?」
よしよしと頭を撫でられて、緩んでいた涙腺が固まった。
見ると少女が心配そうに瞳を潤ませている。その少女を見てセシリアはハッとした。
こんな小さな少女にまで心配をかけて、一体自分は何をやっているんだろう。ここまできて諦めるくらいなら初めから何もしなければ良かったのだ。
しかしもう自分は航海を始めてしまった。それをしたからには今更泣き言なんて言えない。色んな人に迷惑をかけてここまで来たのだから。
「・・ごめんね・・ありがとう」
今度こそ本当の笑顔で答えると、少女にもそれが伝わったのか目を輝かせながら満面の笑みで頷いた。
「・・リア・・」
甲板で大切な、本当に大切な少女の名を口にする美貌の少年がいた。光を吸い込んだ髪はキラキラと反射し、それは一枚の絵画のようであった。
「セシリア・・」
光の差し込まない暗く湿った牢の中で、思い浮かべる銀髪の少女の名を呟く少年がいた。荒々しく野生的な彼の血塗れた目は耐えるようにそっと伏せられた。
無機質なベッドの上で少女は静かに眠る。
彼女は知らない。自分の価値を、そしてこれから起こる運命の歯車を。
過去、現在、そして未来との再会の序曲が今、静かに奏でられた。
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