苦しい・・・息が出来ないよ。

 私、ここで死んじゃうのかな・・・。

 レイルから逃げ出した私への報いなのかもしれない。

 だったら、神様・・・謝りますから最後にお願いがあります。

 最後に一目でいいから彼に会いたいんです・・・。

 神様・・・。




 そこで本当に意識がブラックアウトしそうになったが、誰かに強く腕を引っ張られた気がして最後の力を振り絞って目を開けた。

 あなたは誰なの?

 そう言ったつもりであったが、おそらくそれは声になっていなかっただろう。
 口を開けたせいでますます酸素がなくなり、セシリアはついに誰なのか分からずに再び目を閉じた。


 最後に覚えているのは温かな唇の感触だけであった。







 「・・・きて・・・さ・・ん」

 微かに聞こえる声に反応するようにセシリアの濡れた睫毛がふるふると動いた。
 それを見て、彼女の頬を撫でていた男は一層声を大きくしてその頬を軽く叩いた。

 「起きて〜お嬢さ〜ん」
 「・・んっ・・・」
 「起きないとこのまま襲っちゃうよ〜」
 「ん・・・・ん?」

 ぱちりと目を開けた先にいたのは見知らぬ男性のアップであった。

 驚いたのはセシリアである。ビクリと肩を震わせて勢いよく起き上がった。

 が、
 「うっ、ごほごほ・・・けふ!」

 すぐに激しく咳き込んでしまった。

 それを見て、男は苦笑しつつ、優しく背中を撫でる。

 「急に動いちゃ駄目だって。ちょっと呼吸止まってたんだから」
 「ごほ・・・あ、ありがとうございます・・」

 気遣わしげな男に少しだけ警戒心を緩めて、何とか礼を言うと男は人好きのする笑みを浮かべた。

 「いいっていいって。逆にこっちがお礼を言いたいぐらいなんだからさ」
 「・・・何がですか?」
 「自分の格好、見てみ?」

 セシリアの服をにやにやと眺める男に今自分は寝着のままであったと気付いて、青ざめながら確認をすると、もっと悲惨な光景がそこにあった。

 ただでさえ薄着な上に濡れたせいで体に布がピタリと張り付いて、体のラインが見て取れる。

 「きゃぁ!」

 体を隠すようにして自分の体を抱き締める。今日は悲鳴を上げてばかりだと頬を染めながらつくづくと思う。

 「隠しちゃうの?もったいな〜い」
 「何言ってるんですか!見ないで下さいよもう!」
 「・・・着替え持って来て欲しい?」
 「当たり前です!」
 「じゃぁキスしてよ」
 「嫌です。無理です。でも着替えは欲しいです」

 瞬間的に言って、すぐにしまったと自分の失言に気付いた。

 よく見るとここは甲板のようで、周りにいるのは男ばかりで人数は数え切れないほどだ。皆思い思いに行動しているように見えるが、こちらに意識を向けているのは嫌でも伝わってくる。

 ――これは一体何の船なの?

 今更のように恐怖が湧き上がり、海に落ちた寒さも手伝って体の震えを止める事が出来ない。

 恐怖から来る心細さと恥ずかしさで涙が出そうになった時、ふいに暖かい腕に抱え上げられた。

 「え、ちょっと・・・!?」
 「暴れると落ちるよ〜しっかり捕まってね〜」

 いわゆるお姫様抱っこをされて、ますます恥ずかしくなったが、青年にそっと謝罪の言葉を言われ、何よりも今は一刻も早くこの場を離れたかったので取り敢えずは大人しくする事にした。


 ある言葉を聞くまでは。


 セシリアを抱えてそのまま船内へ入ろうとする男を呼び止める者が一人。

 「お頭、どこへ・・・」

 それは男に対しての問いであったが、大きく反応したのは彼の腕の中にいる女であった。

 「お頭・・・?」

 聞き覚えのある呼び名だ。確か誰かがそう呼ばれる事もあったように思う。

 思い出そうと目を閉じた彼女の脳裏に浮かんだのは黒髪、赤目の少年であった。

 その少年が浮び上ってきた瞬間、セシリアは寒さとは違う震えが背中を走るのを感じた。
 そして、そっと顔を上げて青年の顔を窺い見る。

 「あの・・・あなたってまさか・・・か、か・・」

 海賊なの?と聞きたいのだが、それが真実であった場合を考えると上手く口に出せれない。
 それを見兼ねた様に青年は笑うと、セシリアが最も聞きたくなかった言葉をいとも簡単に言ってのけた。

 「俺が海賊なのか聞きたいわけ?だったら答えはイエスだよ」  











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