「敵襲だ―――!!」



 叫び声と共に耳を覆いたくなるほどの爆音と激しい波飛沫。


 それは早朝、まだ夜も明けきれていない時であった。


 「敵襲!?」

 いつもならまだまだ深い眠りについているのだが、今回ばかりはそうはいかない。ベッドから飛び降りて慌ててレンを起そうとしたが、少年はすでに起きて短剣を手にしている所だった。

 「レンく・・・」
 「ぼやぼやしてないで行くぞ!」
 「う、うん!」

 そしてレンはセシリアの手を掴むと駆け出した。

 握られた手は自分のそれよりも遥かに小さく細いはずなのに、その時はとても大きくて安心感を感じ、セシリアは少し体の硬直が和らいだ。







 「ルキア!!」

 レンが向かった先は船長室、つまりルキアの部屋であった。レンもどうすればいいのか分からなかったのである。だから無意識にルキアに頼ろうとここに来たのだ。

 「ルキア??」

 一見すると部屋には誰もいないようだが、よく見ると隅にあるベッドの布団が盛り上がって軽く上下している。

 「まさか・・・」

 セシリアの予想は見事に当たった。恐る恐る捲くった布団には猫のように丸くなって寝るルキアがいる。

 よくこの状況で寝ていられるな、と半ば感心しながらも船長が寝ていては困るので、
 「ちょっと起きなさいよ」
 肩を揺すって起そうとしたが、一向に目を開ける気配は無い。

 「もう・・・!!」

 さらに強く揺り動かそうとした時であった。
 ルキアが少し唸ったかと思うと突然セシリアの手首を掴んでベッドの中へ引き込んだのだ。

 「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 男慣れしていないセシリアにしたら、たまったものではない。突然薄着の男の胸に抱き込まれたのだから。

 「ん〜・・・」
 「ちょっ、離してよ!!」

 寝ぼけるルキアの胸を強く叩いて容赦なく覚醒を促すと、ようやく少年の紅い瞳が開かれた。

 「あ・・・」

 近くで見ると、瞳はルビーのように透き通っており、血のようだと思っていたそれとは全く違うものに思えて少女はしばし見とれた。


 それがいけなかった。


 まだ夢うつつなルキアは抱き心地の良い体に満足そうに笑うとその首筋に口付けを落としたのだ。

 「おい、ルキア!!」

 見兼ねたレンがルキアを引き離しに掛かると、そこでようやくルビーの瞳が完全に開かれた。
 そして自分がセシリアを抱きこんでいると分かり、少しぎょっとしたように肩を揺らしたが、すぐにまた何事もなかったように腕の力を強める。

 「おい、起きてるんだろ!?そんな事やってる場合じゃないんだよ!!敵襲だ!!」
 「敵襲?」

 これにはさすがのルキアも聞き捨てなら無かったようで、眉を顰めながら重い体を起す。


 ドォン!!


 空気を引き裂く爆音が轟き、海賊王はようやく状況を読み込めたようで、すっと顔を引き締めるとベッドからすばやく降りた。

 「甲板に出る。お前らも来い」

 そう言ってベッドに横たわるセシリアを振り返ったが、彼女はまだそこに縛り付けられたように夜着も乱れたまま仰向けに固まっていた。

 「いつまでそうやってんだ。ほら、行くぞ」

 その肢体に心臓がドクンと音を立てたのが分かったが、それを振り払うように不敵に笑ってセシリアを抱き起こしてやると、少女はぱっと顔を赤らめてルキアから身を離そうともがく。

 「おい?」
 「あ、何でもないの!後から行くから先に行ってて?」


 言って、不審がる二人を半ば追い出すように部屋から出すと、その場にしゃがみこむ。

 ――薄暗くて良かった・・・。

 顔は茹蛸のようになっているだろう。心臓は早鐘のように鳴り響いて今にも飛び出してしまいそうだ。

 外では爆音が響いているのにも関わらず、自分の周りだけ静寂が包んでいるような錯覚を覚える。

 「どうしよう・・・」

 頬に手を当てるとそこから熱が伝わってきた。

 「・・熱い・・・」      











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