「グレイン様!!大丈夫ですか!?」
 「あ?ああ大丈夫だ大した事はない」

 そう言ってグレインと呼ばれた男は腕から流れる血を無造作に拭う。

 「泳いでこられなくても我らが迎えに行きますのに・・・」
 「いいって、俺が泳ぎたかったんだからさ」

 でもさすがに傷は沁みたな、と軽く笑いながら差し出された布を腕に巻き付けると思い出したように口を開いた。

 「あ、それから船の進路を北に変えろよ」

 北、と言う言葉に部下の一人が眉を顰める。確か、ここから北はドュール海がある。だが問題はそこではない。
 ドュール海には、最近入った情報によると彼の宿敵とも呼べる相手がいるはずだ。

 「なぜ北へ?わざわざ奴に会うつもりなのですか?」

 差し出がましいと思いつつも聞かずにはおれなかった。
 だが、男は機嫌がいいのかそれを咎める事もなく口の端を持ち上げる。

 「久しぶりに会うのもいいだろう・・・我が宿敵の海賊王殿に」

 クスクスといつになく楽しげに笑うグレインに男はポカンとするしかない。
 グレインはひとしきり笑った後、ふぅと一息ついて濡れて重くなった髪を掻きあげた。

 「それに今回はあいつ以外にも目的があるんだよね」
 「はい?」

 波の音に青年の声は掻き消されたため、男は聞き返した。
 だが、グレインは濡れた体を潮風に晒しながら北をまっすぐに眺めて再びそれを口に出そうとはしなかった。




 美しい金の髪に太陽に晒された事がないと思うほど透き通った肌。そして、殺気立った海色の瞳。


 思い出してもゾクゾクと体が震えるのが分かる。ただの坊やだと思っていたが・・・。


 分かる事は彼が海軍の人間だと言う事と――――




 ”レイル”




 後から出て来た海軍の男が少年をそう呼んだ。しかも様を付けて。


 あれは相当な剣の使い手だ。階級も高そうだ。一体何者だろう。



 そこでグレインは思考を止めた。

 答えはすぐに分かるだろう。

 船を急がせよう。一刻も早く北へ。






 「早く会いたいなぁ・・・・・・レイル」











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