序
メリクリウス王国直属の海軍の最高司令部の最上階。海軍最高司令官、大提督の一室である。
そこには難しそうな表情をしたこの部屋の持ち主、レオニードとその息子レイルがいた。
「それで、お前はどうするつもりなのだ」
そう問いかけたが、レオニードにはすでにその答えは分かっていた。親子らしい事はあまりしてきていないが、息子の決意の篭った目を見れば予想がつく。
「後を追います」
予想通りの答えを至極当然のように言い放つ目の前の少年にレオニードは深い溜息を落とした。
「そうは言っても、奴等がどこに向かったのかも分からぬのだぞ。彼女が無事である保障もない」
「それでも私の答えは変わりません」
そしてしばらくお互いを探るように見つめ合う。
先に折れたのはレオニードの方であった。緊張で張り詰めた空気を絶つように声の調子を上げて言った。
「分かった。彼女は私にとっても大事な娘だ。それに花嫁一人守れないようでは多くの国民を守る事など出来はしないだろう。・・・お前の好きにするがいい」
レイルは父の言葉にほっとしたようだが、表情は相変わらずの無表情なのでその心情は読み取れなかった。
ただ一言、
「ありがとうございます」
深くお辞儀をしながら言って、用は済んだとばかりに部屋を出て行った。
何時の間にか大きくなった息子の背を扉の外まで見送った後で、自然と笑みが零れる。
「さて、どこまでやれるか・・・見物だな」
部屋の外で待機していたユーシスは、レイルが出てくるのを確認するやいなや彼にすばやく駆け寄った。
「大丈夫だったかい?」
期待と不安の入り混じった顔で尋ねる青年に一瞥もくれず、レイルは階段を降り始めた。
海賊が去ってから部下を総動員してセシリアを探したが、彼女はどこにもいなかった。
彼女がいた場所には海賊が侵入した形跡があった。その時、レイルは彼の花嫁になるはずであった少女は海賊に連れ去られたのだと確信したのだ。
無事であろうか。乱暴されていないだろうか。・・・まだ生きているのであろうか・・・。
考えるだけで自然と拳を強く握り締めている自分がいる。
またか、と思う。
また海賊に奪われるのだろうか。
――いや・・・。
そんな事はさせない。なぜなら自分にはあの時はなかった力があるからだ。大切な人を守る力が。
波風の立った心を落ち着かせるように窓から空を眺める。
それは深い海のように、腹が立つくらい青かった。
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