海賊とは略奪行為や殺人、婦女暴行など乱暴なことばかりする野蛮人ぞろいと言うのが一般的なイメージである。
 もちろんセシリアも例外ではなく、むしろ副大提督の娘として海賊達の悪口はよく耳にしてきた。


 だが―――


 「お頭〜、もう遅いっすよ〜。あやうく捕まるとこでしたよ〜」
 「あっはっは、わりぃわりぃ」
 「笑い事じゃないっすよ、もぉ〜」
 「ははははははははは」


 目の前の光景に、セシリアは開いた口が塞がらなかった。
 これが世に恐れられている海賊なのだろうか。

 「ありえないわ」
 ポツリともらした呟きが聞こえたのか、大口を開けて笑っていた海賊の一人がセシリアに気付いた。

 「お頭、何なんですかこの女は!?」
 「女・・・?」

 笑い声がピタリと止んで、視線がセシリアに集まる。
 思わず怯んで後退ろうとした肩にルキアが手を回して自分の方へ引き寄せた。
 「!!」
 そして、体を強張らせて息を潜めるセシリアをおもしろそうに眺めた後、こちらを見詰める仲間に向かって高らかに宣言した。

 「こいつは今日からオレたちの仲間になるセシリアだ。・・お前達、いじめんなよ?」

 辺りが一瞬にして静まりかえった。

 俯いていても分かる。刺すような視線が自分に集まっている事を。

 ――もうやだっ・・

 それに耐え切れなくなった頃、沈黙が突如として破られた。


 「オレは認めないぞ!」


 セシリアは、はっとして顔を上げた。
 突然沈黙が破られた事にももちろん驚いたが、その声が高く、まだ少年のような響きがあった事の方がセシリアを驚かせた。

 目を向けた先――沢山の男達に混じって、ひどく不釣合いな小柄な姿が目にうつる。

 「子供・・?」

 なぜこんな、海賊船なんかに?

 よく見れば、まだ10歳かそこらの華奢な少年だ。
 勝気そうな目には怒りを称え、精一杯こちらを睨みつけている。

 「ルキア、オレは認めないからな!そんな・・そんな貴族の女なんか!!」
 「レン」
 「っ・・・だって・・」

 窘めるように言われ、少年は悔しそうに唇を噛んだ。

 ――何なの?

 展開が飲み込めずに困惑するセシリアの肩をルキアは軽く叩いてから口を開いた。

 「詳しい事はまた後でだ。今はここを離れるぞ。梶を取れ」

 その声に男達は反応して、すばやくそれぞれの作業に取り掛かっていく。

 先ほどまでの海賊とは見違えるような素早さに目を白黒させていると、レンと呼ばれた少年がこちらに近付いて来た。

 自然、少年を見下ろす形となり、それがまた気に食わなかったのか、

 「絶対ここから追い出してやる。覚悟しておけよ!」

 吐き捨てるようにそれだけ言うと、セシリアの横を通り過ぎ、船内に入って行った。


 歓迎されるとは思っていなかったが、あそこまで嫌悪されるとも正直思っていなかった。

 「一体何だって言うのよ・・・」

 これからあの少年に何をされるかと思うと頭を抱えるしかなかないセシリアであった。











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