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海賊船騒ぎはすぐに広がり、当然それはレイルにも届いた。
報告に来た部下を先に行かせ、レイルはテーブルの上に置いてあった剣に目を向ける。
今まで何人もの海賊の血を吸ったにも関わらず、それは変わらずに美しい光沢を放っていた。
それを手に取ろうとした時、ドアが荒々しく開かれた。
「レイル!!海賊船が港に出たって!!」
いつになく焦った様子のユーシスに、レイルは分かっている、と頷いてみせる。
「俺も今聞いたところだ・・・行くぞ」
そう言うなり部屋を飛び出して行くレイルにユーシスは慌てて付いて行った。
港に向かいながら自分の中に負の感情が芽生えていくのが分かる。
"海賊"
この言葉を聞くといつもあの忌まわしい出来事が思い出されるのだ。
「・・・っ」
それを振り払うように強く瞼を閉じた後、再び開かれた目にはどす黒い憎しみの色が渦巻いていた。
その頃、港では海賊による砲撃が激しく、これ以上は持ちこたえられそうにないほど追い詰められていた。
「第2砲台やられました!!」
「巡回船も全滅です!」
「なんだと!?」
その報告を受け、この港を任されているセオは頭を抱える。
もう海賊に対抗できるすべが見つからない。いつ上陸されてもおかしくはない。
これまでか、と思った時、誰かが叫んだ。
「レイル様!ユーシス様!」
「!!」
まさかと思ったが、目に映ったのはまさしくリーズホーク艦長レイルと副艦長ユーシスの姿だった。
この港は海軍本部と離れており、本来レイルやユーシスのような高官が来るところではない。
要請を受けてきたと言っても早すぎる。
今日、この港の近くでレイルの結婚式があるとは知らないセオにはとても信じられない光景だったのだ。
だからユーシスから、
「状況はどうなっているんだい?」
と聞かれても、すぐには答えられなかった。
焦れたのか、困ったように笑うユーシスを押しのけ、レイルが鋭く言い放った。
「早く話せ」
「はっはい!か、海賊船からの砲撃が激しく、全部で10ある砲台もほぼ全滅。3隻あった巡回船も出港できる状態ではありません」
思っていたより事態が深刻だったのか、レイルは難しい顔をして海上の船を睨みつける。
するとユーシスがところで、と切り出した。
「君達に被害はないのかい?」
「・・砲撃で多少怪我をした者もおりますが、建物などに被害はなく死者も今のところは出ていません」
「へぇ・・・それは珍しい海賊さんだねぇ」
言葉とは裏腹に大して驚いている風でもなく、レイルと同じように視線を海に向けた。
噂には聞いた事がある。決して人殺しはしないと言う風変わりな海賊の話を。
「まさか本当だったとはね・・」
楽しそうに笑うユーシスにレイルは険しい表情で言った。
「おかしいとは思わないか。奴ら、普通ならとっくに上陸しているはずだ」
「・・・」
言われてみれば確かにおかしい。上陸しなければ金目のものは何も取れない。
こちらはもう戦う力は残っていないというのに、船にその気配はなく動こうとしない。
まるで何かを待っているように――
「奴らの目的は上陸ではない・・」
「レイル?」
彼らしくない驚愕の表情と消え入りそうな呟きにユーシスがいぶかしんでいると、レイルが突然向きを変え、もと来た道を引き返していくではないか。
「レイル!?どこに行く気だい!!?」
ユーシスがレイルの腕を掴んで引き止めようとしたが、すぐにすごい力で振りほどかれた。
「レ・・」
「まだ分からないのか!?あの船はおとりにすぎない!」
「な・・・!?」
詳しく説明する暇もないのか、それだけ言って駆け出していく。
あの船は待っているのだ、もうすでに上陸を果たした船が帰って来るのを。
この辺りで金目のものが一番あるところは一目で分かる。
結婚式を行うはずのあの壮麗で巨大な建物だ。
それに気付いた時、心臓が止まるかと思った。
なぜなら、あそこにいるのは――
「セシリア!!」
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