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「ここでもない〜」
セシリアはうめきながらドアを閉める。もう何部屋調べたかなど数えてはいない。
とても大きな建物だったので部屋数も多いとは思っていたが、まさかここまでだとは。
始めは通路で人に会うたびにあいさつや話をしていたのだが、いい加減それにも嫌気がさし、人に会いそうになると部屋の中に隠れることも出来るので便利なのだが、セシリアは辟易していた。
「こんなに空き部屋ばかり、何のためにあるっていうのよ」
ブツブツと愚痴をこぼしながら突き当たりを曲がろうとするところで複数の足音を耳にする。
「げっ」
慌てて近くの部屋のドアを開けて体を滑り込ませる。
足音が去っていくのを確認し、ほっと息をついて部屋に目を向けた瞬間、セシリアは絶句した。
その部屋の中には先客がいたのだ。
「よぉ」
その先客の男――と言うには少し幼さが残る少年は、セシリアの突然の登場にも動じた様子はなく声をかけてきた。
しかし、セシリアはそれどころではなかった。
――何!?何なのこの人・・・!!
少年はおよそこの場に相応しいとはいえない服装だった。
動きやすさを重視した薄布に腰には鈍く光る短剣、そしてその手には多くの宝石が握られていた。
混乱しつつ部屋の中を見渡すと、美しく飾られた箱やドレスなどが大量にあり、その箱には「セシリア嬢へ」と書かれたものもあった。
どうやらこの部屋はセシリアのために用意された贈り物の保管場所だったようだ。
――まさかあの宝石は・・・
確信めいた予感を感じつつ、恐る恐る少年の手の中の宝石を見やる。
「ん?」
少年はセシリアの視線の先を辿って己の手中の宝石に目を向けた。
「これってあんたの?」
片手を軽く上げて宝石をよく見えるようにする少年に返す言葉が見つからない。
ドアに張り付いたまま凍ったようにピクリともしない少女に呆れつつもその全身を見て、少年は驚いたように言った。
「もしかして、あんた今日結婚式だったりすんのか?」
「そっそうよ!」
セシリアは言葉を返せた事に安堵して、少し体の力を抜いた。
少年は何かを考え込むように宝石を見詰めているかと思ったら、おもむろに顔を上げた。
「そりゃぁ悪かったな」
「は?」
突然謝られて頭の中に疑問符が飛ぶが、次の瞬間ある事が浮かんで来た。
「まさか・・あんた・・・盗賊じゃぁ・・・」
それなら全てが頷ける。少年の格好も腰の短剣もなぜこのような場所にいるのかも。
再び凍りつきドアにピタリと背中を貼り付けるセシリアを、しばらくあっけに取られたように見ていたが、
「ぷっ・・あはははははは!!」
突如声を上げて笑い始めた少年に、今度はセシリアの方があっけに取られる。
「一体何が面白いって言うのよ!」
いっこうに笑いが止まる気配を見せない少年に痺れを切らし、声を荒げる。
「悪い悪い。あんたがあまりに笑える事言うから・・」
あ〜腹痛ぇ、と涙ぐんだ目じりを擦る少年の態度にセシリアは再び疑問が浮かぶ。
盗賊ではないなら一体何なのだこの少年は?
戸惑うセシリアに、ようやく笑い終わった少年がにやりと口の端を大きく持ち上げた。
「!!」
それにぞくりとする何かを感じ、セシリアが自分の体を抱きしめるように腕を回した時だった。
「海賊だー!!海賊船が港に出たぞー!!」
突如男達の叫び声がこだまして、何十人もの足音が鳴り響く。
それはドア一つ隔てた部屋の中にいても鮮明に聞こえてセシリアは息をのんだ。
「か、いぞく?」
部屋の前をバタバタと足音が遠ざかっていき、訪れた静寂の中でセシリアの喉を鳴らす音だけが妙に大きく聞こえた。
目の前の少年は不適な笑みを浮かべている。その意味が分からないセシリアではなかった。
「盗賊じゃないならあんたまさか・・・」
少年の笑みがいっそう深くなる。
―――――――――海賊・・・
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