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早朝、セシリアの部屋のドアをノックする者がいた。ソフィアである。
「セシリア様、失礼いたします」
軽く声をかけて静かにドアを開いたところで目を丸くする。
まだ夢の中にいると思っていた主が起きて窓際に立っていたからだ。
セシリアはソフィアに気付き声をかける。
「おはようソフィア」
「お、おはようございますセシリア様。しかし珍しいですわね、私が来る前に起きていらっしゃるなんて」
セシリアは困ったように笑った。
「起きたというか、眠れなかったんだけどね」
見るとセシリアの顔には疲れの色がにじんでいる。
しかしそれも無理はないと思う。今日は結婚式なのだ。色々と思う事もあるだろう。
「・・・大丈夫でございますか?」
その問いに含まれる意味を感じ取って、セシリアは目を伏せた。
「私・・・このまま結婚してもいいのかしら・・・」
ポツリと零れた言葉にソフィアは目を見開く。
その様子に苦笑しつつ、セシリアは話し始めた。
「レイルの事がよく分からなくて・・・昔とは変わってしまったんだって思っていたの。でも、ふいにみせる表情は昔のまま。本当のレイルはどちらなのかしらね・・・」
「本当のレイル様?」
セシリアは頷く。
「ある人に言われたの。私なら本当のレイルを分かってあげられるって・・・でも私にそんなこと本当に出来るのかしら?レイルの事、何でも分かっているつもりだった。でもそれは違った。私はこの7年のレイルを全く知らないんだもの当然よね・・・」
話を止めて脱力したようにベッドに腰掛ける。
ソフィアが声をかけあぐんでいると、ふいにセシリアが射抜くような視線を向けてきた。
「ソフィアは覚えているわよね?7年前のあの事件を・・・」
「事件・・・」
記憶をたどり、7年前の記憶を呼び起こす。
しばらく経った後、ソフィアは眉を顰めてセシリアを見返した。
「7年前というと、あの事件でしょうか?・・・あのむごい・・・」
「そうよ。私も覚えていたわ・・・でも忘れかけていた。いえ・・・忘れたかったと言う方が正しいかもしれないわ・・」
「それは仕方のないことです。誰だって、あのような事すぐにでも忘れたいですわ」
セシリアを元気付けようとしているのか、ソフィアは力強く言ってみせたが、セシリアは小さく首を振った。
「でもレイルは違ったわ。一番忘れたいのはレイルのはずなのに、彼はまだあの事を少しも風化せずに覚えてる」
レイルを捕らえているものが何であるかセシリアは確信していた。
"全てはあいつを殺すためだ"
――あいつを殺しても何も変わらないのに。きっと虚しくなるだけだわ・・・
それほど恨みが深いと言う事だろう。あの心優しい少年をあそこまで変えてしまうほどに。
この7年間、そのためだけに生きてきたのだろう。
もしあいつを殺してしまったらレイルはどうなるのか?生きることを止めたりしないだろうか?
その考えにセシリアはぞっとした。
「セシリア様・・・?」
突如青くなったセシリアを心配そうに窺うソフィア。
セシリアは先程の考えを振り払うかのように頭を振ってから、ソフィアを安心させるように微笑んでみせた。
「大丈夫よ。さっ、早く準備しないと」
「は、はい・・・」
ソフィアは怪訝に思いながらも準備を再開する。
セシリアはベッドから立ち上がり、着替えに取り掛かった。
だが、考える事は一つだった。
レイルは艦長になった。これから海にも多く出て海賊も捕まえるだろう。
本格的にあいつを――あの海賊を探す事も出来るはずだ。
そうなったらセシリアにはレイルを止めるすべはない。口で言ったところで今の彼が聞くとは思えない。
――レイルを止めなくちゃ・・・
しかし、それを成すすべが今の彼女にはなかった。
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