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ルキアが密かにリオール王国へ入るとすぐに支援達が集まる隠れ家に通された。
ルキアが現れた途端、殺気立っていた人々はハッとして少年の周りに集まって来る。
彼を初めて見た者が殆どであるためか疑惑の目も多い中、しかし少年は怯む事無く彼らをグルリと見渡す。
「へ〜、結構集まってんじゃん。これなら何とかなるかもな」
言ってニヤリと笑う彼に人々は息を呑む。この場にいる誰も苦笑すら出来ないほど緊張と恐怖に殺気立っていた。だからこそ彼の余裕の笑みが信じられなかった。
「・・・我々は勝てるでしょうか?」
ひどく唐突に、そしてひどく真摯な一人の男の言葉は静寂に包まれた空間に染み渡るように広がった。
それは誰しも考えていた事だが誰一人言い出せない事であった。
内陸国で海賊の恐怖もなく、特に敵対する国も同盟を結ぶ国もなく孤立していたリオール王国の人々は武器を持つ事など皆無であったのだ。
それを突然侵略の脅威に怯えなければならなくなるなんて。戦う事を決めた者達でさえ底知れない恐怖を内に秘めていたのだ。
その恐怖を払拭してくれる存在を求めていた。それを突然現れた王位継承者と名乗る少年に懸けたのかもしれない。
ゴクリと生唾を飲み込む男に血色の瞳を向けた海賊王は果たして不敵に笑んだ。
「勝てる、じゃなくて勝つ、だろ?勝たなきゃ終りだ。そのためにオレが来たんだから」
分かってねぇなぁ、と猫毛の髪を掻く少年を呆然と眺めながらその場にいた全ての者が彼が真実王である事を知ったのである。
「・・・え・・今、何て言ったの?」
リズホーク艦隊の艦長室に問い詰めるでもなく、静かに請うように言うセシリアの声だけが悲痛に響いた。
「船を降りろって・・嘘でしょ?私も一緒に戦うって言ったじゃない・・」
信じられなかった。気持ちを受け入れてもらえないだけでなく一緒に戦う事も拒否されるなんて。
「レイル・・ねぇ・・」
震える手で彼の胸元を掴み、揺さぶる。何度も何度も。横を向いている彼をこちらに向かせたくて、振り向いて欲しくて何度も何度も。
「どうして?あたしがいたら・・何か問題でも・・」
「足手まといだ」
ようやくレイルのブルーグレーの目がセシリアのそれと交わる。少女は一瞬頬を緩ませたが、すぐに呆然と目を見開く。
「・・・え?」
「あなたがいたら足手まといだと言った。それにこれは俺と奴の戦い・・あなたには関係ない」
「――――っ!」
凍りつく海よりも冷めた眼差しが本気だと言っていた。どうして、と叫びたかったが漏れてくるのは渇いた空気だけだった。
そして壊れたように涙を流す少女にレイルは残酷にも言い放った。
「連れて行け。そして出来るだけ島から離れろ」
艦長としての命令に逆らえる者はここにはいない。ユーシスさえも目を伏せるばかりで異論は唱えなかった。
二人の海軍兵に両脇を抱えられるようにその場から連れて行かれるセシリアは部屋から出る直前、ようやく事態を飲み込んだのか、
「いや!レイル!どうして・・・レイル!」
泣き叫んで暴れるが、それでも彼は振り向かない。やはり振り向いてくれない。
「やっぱり・・駄目なのね・・・」
彼の背中しか見えない少女は当然気付かない。少年が血が滲むほど唇を噛み締めている事を。その瞳から透明な雫が零れ落ちる事を。
少女は知らない。少年が呟いた言葉を。
「お前だけは生きろ」
あぁ、こんなにも。
「愛してる」
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