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 レイルが目を覚ましてからさらに4日後――ついにリズホーク艦は母国、メリクリウス王国への帰艦の日を迎えた。

 「元気でな、嬢」
 「幸せになるんだぜ」

 慣れ親しんだ海賊達の別れの言葉にセシリアは一つ一つ頷きながら、その翡翠の瞳からは大粒の涙が今にもおぼれ落ちそうになっていた。

 「皆も元気でね。本当に今までありがとう」

 堪え切れない、とばかりに涙が頬を伝うと海賊達もつられた様に一人、また一人と目頭を押さえていく。その中にひときわ華奢な少年の姿があった。

 「レン君・・・」

 涙を拭いながら大きな海賊達の後ろに隠れるように潜んでいた少年に最後の別れを告げようと近付くと、

 「オレは別れなんて言わないからな!いつかきっと、会いに行ってやるから!」

 真っ赤に泣きはらした目をして言い募る少年が堪らなく愛おしくなって、セシリアは彼を力いっぱい抱きしめた。

 「いつか・・もっと大きくなって、お前より大きくなって、きっと会いに行く」
 「うん。待ってるよ」

 まだまだ骨ばった小さな体だが、これからきっとこの国で立派な青年になるだろう。過去に拘らずに未来を生きる――彼にはその強さがある。

 ひとしきりレンと抱き合った後、顔を上げると紅色の目と視線が交わった。

 「ルキア・・・」
 「元気でな。心配すんな、こいつらの面倒はオレがみてくからな」

 何たって王様だぜ、と笑う少年に少女は深々とお辞儀をした。

 「本当に今までお世話になりました。ルキアがいなかったら私・・・」
 「だ〜、やめろって。そう言う辛気臭いの嫌いなんだよ、オレ」

 言って、ルキアはセシリアの顔を上げさせて、短くなった銀髪をくしゃくしゃと撫でた。

 「ルキア?」
 「・・・髪、このまんまじゃ花嫁衣裳似合わねぇだろ。早く髪伸ばせよ」
 「あ・・・ルキア、私ね・・」
 「いいって。返事はもう分かってるから」

 ルキアは笑んだが、少しだけ目が揺らいだのを感じ、セシリアは唇を噛んで俯いた。

 「私、迷惑かけてばっかりだよね。勝手にルキアに付いて行ったくせに何の役にも立たないで・・」
 「言っただろ?辛気臭いのは嫌いだって。それに、あんたは役立たずじゃなかったぜ?」
 「そんな事・・」
 「あんたが来て、レンが笑うようになった。レンだけじゃない、他の奴等もあんたに癒されてた。海賊なんてやってると、そう言う存在が必要なんだ」

 乱れた髪を直すように優しく頭を撫でるルキアの温かい手にセシリアの目からは大きな雫が次々と零れ落ちていく。

 「それに、癒しだけじゃない。あんたはちゃんと逃げずに戦った。あいつが生きていられるのはあんたがいたからだろ?」

 もっと自信持て、と励まされるたびにセシリアの涙は止め処なく溢れていく。
 ルキアは涙を拭いながら苦笑すると、ふと何かを思いついたように小さく声を上げた。

 「そんなにオレに感謝してるなら、お礼くれよ」
 「ひっく・・お礼?でも、今何も・・・」
 「いいって、これで」

 言って、涙でぼやける視界にルキアの紅い目が写ったと思った次の瞬間、


 チュッ


 額に柔らかな感触。

 「!?ちょっと・・・!?」
 「いいじゃん、こんくらい。オレから花嫁への祝福のキスってやつだ」
 「そんな・・・」

 顔を真っ赤にしたセシリアが抗議しようと少年に詰め寄った時、ドォンと言う砲弾の音が耳に飛び込んで来た。

 「何!?敵・・・!?」

 慌てる少女にルキアは苦笑いしながら宥める様に彼女の肩を軽く叩いた。

 「出航するって事だろ。ったく、派手な事しやがって」
 「出航・・・」
 「これで本当にさよならだな」

 顔から笑みを消して、無言で差し出された彼の手をセシリアは力強く握った。

 「きっと、この国を立て直してね。ルキアなら絶対出来る、そう信じてるから」
 「あぁ。絶対だ」

 そして手を放した時、二人の顔には晴れやかな笑みが浮かんでいた。      











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