11
ゆっくりと剣を握りなおしながらジェイは意外そうにまだ幼さの残るルキアの顔を見る。
「お前がルキアか。どんな奴かと思ったら・・・ガキじゃねぇか」
「海賊も世代交代ってわけ。おっさん、早く引退してくんない?・・・海族王は二人もいらないだろ」
そしてルキアの顔から表情が消える。
細められた紅色の瞳に海族本来の残忍さが宿った刹那、二人は同時に飛び出した。
ジェイの重量のある長剣を両腕に持った短剣を交差して受け止め、少年は軽く眉根を寄せた。
「痛ってぇ・・・おっさん、力強すぎ」
力にここまで差があるとは考えていなかった。
――まずいな。
このまま接近戦で戦っていても体力を消費するばかりだ。ただでさえ体中の傷がズキズキと痛んで力が上手く出せないのだから。
「くっ・・!」
キィン、と甲高い金属音と共にジェイの長剣を渾身の力で弾き返すとすぐに飛び退って距離を取る。傷口がいくつか開いたらしく、動くたびポタポタと血が滴り落ちるのを目の端で捉え、少年は舌打ちした。
ジェイはすぐに立て直すと甲板に残る赤を目に止め、口の端を持ち上げる。
「どいつもこいつも・・・オレも舐められたもんだ」
「このくらいのハンデがないと面白くねぇだろ」
「・・・何だと?」
一瞬にして男の顔から笑みが消える。
そして剣を両手で握り直すと一歩足を踏み出した海族の瞳は、飢えた獣を思わせた。
このまま一気に間合いを詰めようとする男に向かって少年は持っていた短剣を2本、続けざまに投げる。
一直線に男の体への吸い付くように飛んで行く刃に、少しは怯むかと思ったジェイは、しかし簡単になぎ払うと反対に短剣を投げ返してきた。
「げっ!反則・・・っ!」
悪態を付きながらも反射的に体は避けようと動き、横に勢い良く転がる。
受身は取ったがそれでも全身に痛みが走り、立ち上がるタイミングが少し遅れてしまった。
「さよならだな、小僧?」
「!?」
突如、頭上から声が降って来て、驚いて見上げた先には獲物を捕らえた喜悦に目を細める男が剣を振り上げていた。
武器を取り出す暇もなく、ルキアは反射的に足払いをする。
見事にバランスを崩して四つん這いになった男に、すぐさま立ち上がった少年は最後の一本となる短剣を取り出した。
「油断大敵ってな」
背後から首筋に刃先を突きつけながら、ジェイの手から剣を奪う。
「言ったろ?海賊王は二人もいらない。オレ一人でいい」
男は諦めたように項垂れて、苦笑交じりに言った。
「こんな小僧にな・・オレも年をとったってわけだ」
「違うな。あんたの敗因は海を離れた事だ・・・海賊は海に出てこそ王者になれる」
「・・・そうだったな。オレは陸に留まりすぎたのかもしれない」
息を吐き出して甲板を見回したジェイは静かに目を閉じた。
仲間の海族達は全て海軍に捕らえられ、勝負は決していた。後は親玉であるジェイだけである。
「・・・殺せ」
「そうしたいのは山々なんだけど、そうもいかないわけ」
「どう言う事だ?」
「あんたは殺すのはオレじゃないって事・・・そうだろ、艦長殿?」
最後の方はジェイではなく、第三者に向かっての言葉だった。
彼の背後には、太陽の日を受けて輝ける金色と、対となってそれに寄り添う銀色が静かに佇んでいた。
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