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捕らえた海賊達から情報を入手したレイル達はリズホーク艦隊に集まり最後の作戦を立てていた。
「奴らはバルム王国を支配し、隣国であるリオール王国にも侵略の手を広げている。奴らの拠点はバルム王国にあると考えていいだろう」
「だが、戦力の殆どは今リオール王国にあるはずだぜ?なんてったって侵略中だからな」
「・・陸地で戦うのは不利だね・・どうにか戦いの場を海上に持って来れないかな」
セシリアも一応作戦会議に参加してはいたが、意見など言えるはずもなくひたすら彼らの話し合いに耳を傾けていた。
争いとは無縁の生活を送っていたので仕方ないのだが、それでも彼女は自らの無力さを痛感させられる。
男達はどうやら敵を海上に引きずり出す方法について考えているらしい。だが、誰も良い案が浮かばないようで一様に難しい顔をしている。
行き詰まり、陰鬱とした雰囲気を払拭したのは紅目の海賊王であった。
「方法ならあるぜ」
その一言に一同が少年の顔を見る。ルキアはその視線全てを受け止めるとニヤリと笑った。
「リオール王国にもまだ諦めてない奴らはいる。そいつらと手を組む事にした・・・合図すればいつでも暴れてくれるってさ」
「だが、彼らの暴動だけで敵が海岸線まで追い詰められるだろうか」
「確かに奴らだけじゃな・・・だが、味方の中からも裏切り者が出たら、さすがにヤバイだろ?」
レイルのブルーグレーの目が険しくなる。ユーシスも意味を掴みかねると言った風である。
「海賊達だけで一国を上回る兵力なんてあるわけねぇだろ?バルム王国は小国で海上から攻撃も出来るから支配出来たかもしれねぇが、リオール王国は違う・・攻めるとなるともっと兵力が必要だ、その多くは当然バルム王国の人々だ」
支配した国から兵を募るのはよくある話だが、当然リスクも背負う。戦いの中で裏切られれば大きな痛手を被る事になるのだ。
「元々海賊達への恐怖心で戦ってるだけで好きで協力してる奴なんていねぇ。そこを突く」
「・・だが、今まで従順にしたがっていたのだろう?急に反旗を翻すような真似をするだろうか」
「そのへんは任せろ。もう手は打ってる」
いつの間に、とレイルはルキアを横目で見る。実は全てアフツァルが前々から計画していた事なのだが、部下の功績は上司の功績だ。
「そう言う事だからさ、奴らがバルム王国に逃げてきたらあんた達は一斉に砲撃してくれ」
「・・そんな事をして、住民はどうなるのだ」
「大丈夫だって!非難させるから」
「・・・簡単に言うが、そう上手く事が運ぶとは限らない。陸にいる彼らとの連携も不安が残る」
レイルの当然の懸念にルキアは鬱陶しそうに猫毛の黒髪をかきあげると、
「その点も問題ないって。オレが行くから」
「・・・は?」
素っ頓狂な声を上げたのは何とレイルであった。
その様子にルキアは満足そうに頷くと事も無げに言う。
「オレがリオール王国に行って直接指揮をとる。一応王族って事でオレがいた方がいいらしいぜ?」
「危険だわ!」
咄嗟にセシリアは声を上げていた。そんな危険な事を了解するわけにはいかない。リオール王国に行く前に敵に見付かって殺されかねない。
「大丈夫だって!奴らは知らない抜け道があんだよ。オレがそんなヘマするわけねぇだろ」
「だって・・でも・・」
心配の色を隠す事もせず言いよどむ少女と憮然とする少年を交互に見、ルキアは何か思いついたようにニヤリとすると彼女の座るソファーに足早に近寄った。
ぎょっとするセシリアの横に座ると馴れ馴れしく華奢な肩を抱く。
「何?心配してくれんの?」
「えっ!?そりゃぁ・・その・・」
窮屈そうに身を捩りながら赤らむ顔を隠すように俯く婚約者にレイルの眉がピクリと動く。
それに気付いているのかいないのか、ますます気を良くした海賊王は彼女の耳元で何事か囁いた。
瞬時にセシリアの顔色が変わったのに気付き、ついにレイルが動いた。
「今はそんな事をしている場合ではないだろう」
「あ〜はいはい!」
ギブアップを示すように両手を上げるとソファから立ち上がる。そのまま元の席まで戻ると思いきやもう1度セシリアを振り返ると、
「オレが無事生きて帰って来たら、答え、聞かせろよ」
「っ・・・!」
「・・・何だ?」
レイルが不審げに二人を見たが、ルキアは意味深に笑みを深めるばかり。セシリアに至っては俯いておりその表情は読み取れなかった。
問い詰めようとレイルが口を開きかけた刹那、ユーシスが手を二回打ち鳴らした。
「今はそんな事をしている場合じゃない・・でしょうレイル?早く話し合いに戻るよ」
「・・・ああ」
正直セシリアの様子が気に掛かったが今は艦長としての立場を優先させる事にした。
その後の作戦会議中もずっとセシリアは何かを考え込む様に難しい顔をしていた。
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