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離婚する、と叫んですぐにママはその場に崩れ落ちて子供のように泣き出してしまった。
大人になってもよく泣く人だったけれど、ここまでの大泣きは初めて見る。
「ママ・・・!?」
これはただ事ではないと瞬時に感じ取って慌ててベッドから飛び降りる。帝君が呆然と固まっていたけれど、今のあたしは目の前のママの事で頭がいっぱいだった。
恐る恐る近付いて肩に触れると弾かれたように抱き付いて来て、ますます涙するママの背を撫ぜる事しか今は出来ない。まだ、状況を理解しきれていないのだ。
「落ち着いて、ママ。離婚なんて・・・一体何があったの?」
「・・・父と何かあったんですか?」
ようやくフリーズから戻った帝君が同じくベッドから降りると神妙な面持ちで近付いて来る。
あたし達の疑問に、ママはしゃくり上げながら涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。
「う、わき・・・浮気されたのっ!」
「!!?」
「浮気だって・・・?」
言葉にならないあたしの代わりに帝君が声を上げる。信じられない。あんなに仲の良かった二人が・・・ママだけを一途に思っていたはずの明さんが・・・浮気?
「何かの間違いじゃ・・・」
「間違いないの!もう、明さんは・・・うぅ・・」
そして再び泣きじゃくるママに、嘘だとはもう言えない。
どうしよう、と帝君に目線を送ると彼は特に驚いた様子を見せずに、
「あの野郎・・・」
小さく吐き捨てると踵を返して部屋から飛び出して行ってしまった。
「ちょっ・・・帝君!?」
呼び止めても振り向きもせず、扉だけが虚しく閉まる。あの様子だと明さんに連絡を取るつもりなんだろう。
残されたあたしは必死にママを宥める事しか出来ない。
下手に言葉を掛けるとますます事態が悪くなりそうだから、ママが落ち着くのをひたすら辛抱強く待っていると、時間が経つにつれて徐々に泣き声も弱くなり、しゃくり上げる回数も減って行った。
「・・ごめんね、茉莉ちゃん」
「?ママ」
「・・勝手に結婚決めて、今度は離婚なんて・・茉莉ちゃんには転校までさせて・・」
「ママ・・・」
「心細かっただろうに、傍にいてあげられなかった」
「そんな事・・・」
自覚してたのか、と呆れつつ文句を言う気にはなれない。弱ってるママにこれ以上負担をかけるわけにはいかない。
だからあたしは笑顔でこう言うしかなかった。
「あたしは大丈夫だよ。最初は戸惑ったけど、もう慣れちゃったし。案外順応性高いみたい」
精一杯の娘の心遣いである。我ながらちょっとお人良しすぎるだろうと思ってしまうほど。
そんな娘の気遣いに、ママは心打たれるかと思いきや、ホッとしたように涙を拭うと、明るい調子の声でとんでもない事を言い出した。
「ありがとう茉莉ちゃん。じゃぁ、早速準備しましょぉ。ママも手伝ってあげる」
「は?準備って何の・・・」
「とぉぜん、引越しの準備よ」
「ひっ・・・」
引越し!?いつ!?誰が!?どこに!?何のために!?
「ママと茉莉ちゃんが、今すぐに、前のお家の近くのマンションに、当然そこに住むために行くのよ?」
それが何か、と言わんばかりにあたしのクローゼットから服をバッグに詰め込みながら言い放つこの人に眩暈を覚える。
「だって、離婚するのにいつまでもこの屋敷にいられないでしょぉ?前のお家は売却しちゃったけど、マンションを借りたから取り合えずだけどそっちに移ろうと思って」
「いつの間に・・・」
ただ泣いているだけではなく、きちんと考えてマンションの賃貸までしていたとは。いつもボケてるわけでもないのね。
だけど、感心してなんていられない。この屋敷を出て行くなんて・・せっかく帝君と恋人同士になれたのにもう離れ離れになるって言うの?
そんなの嫌。ここは心を鬼にしてママに抗議を・・・
「勿論、茉莉ちゃんは付いてきてくれるよね?」
「えっ、それは・・・」
ヤバイ。先手を打たれた。心なしかまたママの目が潤んでいる。
「もうママには茉莉ちゃんしかいないもの。茉莉ちゃんだけはママの味方だよね?」
「あーえっとー」
「茉莉ちゃんがいないと・・・ママ、どうなるか・・」
・・・・・・・・・・。
「―――付いて行きます」
ええ、どこまでも。
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