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パーティーが終わった夜、あたしは一人で幸せを噛み締めて寝たはずだった。断じて帝君の言うような、恋人達の甘い夜なんて過ごしてない。
誓ってもいい。一人で、一人でベッドに入ったのよ、あたしは。
な・の・に・・・・・・横で天使の寝顔を浮かべている彼は一体?
小鳥の囀りで乙女チックに目を覚ましたあたしの目に飛び込んで来たのはまさかの光景だった。
見慣れた義弟のドアップである。しかも可愛らしい寝顔と言うプレミア付きだった。
「・・・・・・え!?」
驚いて跳ねるように起きた振動で、眠っていた天使が目を覚ましたらしい。日本人とは思えないバッサバサの睫毛がゆっくりと持ち上がると現れた黒曜石の瞳が朝日に輝く。
見慣れていたはずなのに、今更ながらに心臓が高鳴ってしまい焦っていると彼と目が合った。
「・・おはよ、茉莉」
・・・どこのロマンス映画だ!!
にっこりと笑んで上半身を持ち上げる彼の姿は正に恋人達の朝。幸せの余韻。まさかあたしが覚えてないだけで本当はそんな展開があったのか!?
慌てて自分の衣服を確認してると額に羽のように柔らかな感触。
「なっ!?」
「朝の挨拶」
そうして悪戯が成功した子供のように無邪気に笑う彼を見ていると、何だか全てを許してしまいそうで――――
「って、そんなわけないでしょうが!」
「は?」
「どうしてあたしのベッドにいるか説明してよ」
危ない危ない。うっかり雰囲気に流されるところだったわ。いくら恋人同士になったとは言え、こう言う事はしっかりしておかないと。
急に真剣に問いただすあたしに帝君は数回瞬きをすると事も無げに、
「一緒にいたかったから」
言ってのけた。さらに呆けるあたしに追い討ちをかける。
「それなのにパーティーから戻ると茉莉はさっさと部屋で寝てたから。こうなったらもう一緒に寝るしかないだろ」
「どんな思考!?メイドさん達もいるのに、どうするのよ!」
義姉弟が同じベッドで一晩過ごすなんて、ゴシップもいいとこだ。噂好きのメイドさん達だからきっと1日も立たずに屋敷中に広まってしまう。
「それは安心していい。メイド達の殆どはパーティーの片付けに追われているし、ちゃんと手回しもした」
「手回しって・・・最初からそのつもりだったわけね」
「・・・せっかく想いが通じ合った夜くらい一緒にいたかったんだ」
いつになく素直で子供っぽい言い訳にあたしは呆れると言うより、嬉しいと思ってしまった。
こんな風にお互いさらけ出せるのも、ノロケに近い事が出来るのもあたし達の気持ちが通い合ったからだ。特に帝君はその気持ちが大きかったんだろう。
しかも誕生日の夜。一緒にいたいと思うのも無理はないわけで。
「・・・もういいわ。あたしも一緒にいたかったし・・」
疲れに負けて寝てしまったけど、本当はあたしだって――
「茉莉・・」
「帝君・・・」
ギシリ、とベッドが甘い悲鳴を上げ、ほわほわした雰囲気が漂い、どちらからとも無く手を伸ばした時だった。
「茉莉ちゃん!!!」
雰囲気をぶち壊すように扉が凄い音を立てながら勢い良く開いた。その音に紛れてとても聞き覚えのある声を耳にしてあたしは驚愕に目を見開いた。
「マ、ママ!?」
開かれた扉の前に立っていたのは海外にいるはずのママだった。しかも、幸せに緩みっぱなしだったはずの顔が何故か泣きそうに歪んでいる。
そして発せられた言葉は信じられないものだった。
「離婚だわ!明さんと、離婚する!!」
・・・離、婚?・・・離婚?
「えぇぇぇぇぇぇ!!??」
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