さっきから何度となく時計を見てしまっている。パーティーに集中しなくちゃ、と思うのに頭の片隅で考え続けるのを止められない。

 一通りの挨拶を終えて、少し休憩をしようと人々の輪から離れて一人、隅でジュースを飲んでいた。
 ジュースと言っても100円で買えるようなものではない。何十万円もする海外ブランドのグラスに注がれるのに相応しい物らしい。

 「・・はぁ」

 パーティーと言えば、もっと楽しいものだと思っていたのに。皆会話を楽しんでいるように見えてもお世辞し合ったり、腹の探り合いだったりと気が抜けない。

 実際あたしも色々言われた・・・遠まわしにだけど、それが皮肉だと言うくらい理解出来る。
 特に帝君目当てであろうお嬢様方の相手は辛かった。あからさまに侮蔑の目で見られて、わざとあたしには分からない上流階級の話題をする。

 何度手に持ったジュースを投げ付けてやろうと思ったか。でもそのたびに、耐えた。あたしが何かすれば彼にも中傷が行く。それに今日は彼の誕生日なんだから、揉め事は避けたい。

 「帝君・・」

 遠巻きに見る少年は疲れも見せずに、お偉いさん方に囲まれていた。何やら顔を赤らめたお嬢様達が挨拶をしている。きっと孫娘を紹介しているんだろう。

 「どうだね、将来の妻に」と言わんばかりのおじいさん達に「まだ早いですよ」なんて誤魔化している彼。
 つい聞き耳を立ててしまう自分に嫌気が差しながらも、内心はかなりイライラしていた。

 「・・何なのよ、あの爺さんたちは」
 「・・・みんな、大物政治家だよ」
 「どうりで偉そうなはずだわ」
 「・・・偉いから、ね」
 「忌々し・・・い・?」

 何だか普通に会話をしてしまっているけど、あたしは一体誰と話しているの?一人で休んでいるはずだったのに。

 「・・茉莉?」

 あぁ、そうだった。彼は神出鬼没だし、何より日本を代表する大病院の御曹司。むしろこの場にいない方がおかしいんだった。

 「・・いたのね、流架君」
 「うん・・いた」

 コクリ、と頷く様子は子供染みてて愛らしい。だけど今はシックな純白のスーツにワインレッドのタイをしていて息を飲むほどカッコ良かった。
 普通の人が着たら笑っちゃうような純白スーツも彼が着たら不思議に王子様になるんだから、参ってしまう。

 「茉莉・・綺麗だね。似合ってる」
 「・・・・・・どぉも」

 しかも、素でこんな事が言えちゃうんだから本当に参る。さすがフランス育ちと言うか、嫌味がない、様になる。そこがまた・・・困る。

 テレを誤魔化すように流架君を睨んで、気付く。そう言えばあたし、まだ彼に帝君に告白するって言ってない。
 決意してから一番に美子に電話した。協力する、仲を取り持つなんて言いながら何を今更と思ったけど黙っているのはもっと良くないと思ったから。
 だけど予想に反して美子は全てを承知してくれた。「気付いてたよ」と言われた瞬間、涙が零れた。

 流架君は・・・どうだろう?

 友達として協力する、と言ってくれたからあたしの決意に笑顔で答えてくれるだろうか。それとも――

 「あの・・流架君」
 「御影様!」

 あたしが声をかけるのと、男性が足早に近づいて来るのはほぼ同時だった。

 男性はそのまま一目散に流架君の前まで行き、腕時計を見ると、

 「こんな所にいたんですか・・後10分ほどで演奏時間になります!早く、準備をしなければ・・こちらへ!」

 早口に捲くし立てるとそのまま流架君の腕を掴んで連れて行ってしまった。

 「あ、流架く・・・」

 あっという間に人込みの中に消えてしまう純白の背中。
 結局言えず仕舞いになってしまい、肩を落として彼が消えた先を見詰めたあたしは今度は落とした肩が跳ね上がる事になる。

 「帝君・・・?」

 今だ多くの著明人に囲まれながらも少年の漆黒の瞳はあたしのそれを鋭く射抜いていた。  











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