12月25日、パーティー当日。
 あたしはシックな黒のドレスを身にまとっていた――こんなあたしでもまるで別人みたいに大人びて見える。

 招待客の方々に緊張で飛び出しそうな心臓を押さえながら挨拶して回るあたしの隣には誰もいない。

 結局、流架君には頼まず一人でやろうと決めた。
 帝君はとても驚いていたけれど、きっとパーティーが終わった後にはもっと驚くんだろうな。

 だって、決めたから。あたしは、今日、帝君に告白する。









 帝君と庭で別れた次の日、早朝5時。まだ外は真っ暗で、太陽は顔を出す気配は無い。いっそう冷え込む空気を思い切り吸い込んで吐き出した息は真っ白だった。
 玄関の前でドアに持たれかけながらあたしは立っている。もう何度もメイドさんに中に入るように言われてるけれど頑なにそれを拒んだ。

 「まだかな・・帝君」

 そう、あたしは彼を待っていた。あれからとうとう日付が変わっても帰って来ない義弟を心配している、と言うわけでは決してない。
 ただ伝えたい事があったから。

 「あの・・お嬢様?お風邪を召してしまいます・・中へ・・」

 遠慮がちに片方のドアが開かれてメイドさんが顔を出す。何だか顔色が悪いのは心配をかけているあたしのせいだと分かっているけど。

 「大丈夫、外にいる・・外じゃなきゃ、分からないもの」

 精一杯の笑顔で返すとメイドさんは首を傾げて何か言いたそうに口を開いたがすぐに、

 「・・そうですか。分かりました・・お部屋で温かい紅茶を入れて待っております」
 「うん、ありがとう。ごめんね」

 悪いな、とは思うけどここは譲れない。だって、帝君も外で待っていてくれたから。
 薄着で寒いはずなのに、肩を震わせていたのに、それでもあたしを待っていてくれた。
 彼にとっては特に意味なんてなかったのかもしれない。

 だけど、少しでも近付きたくて、同じように今度はあたしが彼を待ってみようって思った。

 見上げる真っ黒な空は雪がちらついて、今日はまた一段と冷え込んでいるようだ。本心を言えば今すぐにでも部屋に入ってメイドさんが入れてくれた温かい紅茶を飲みたい。

 いつ来るのか分からない、約束のない相手を待つのは実はとても大変な事だ。しかもこんな寒空の下。

 でも、あたしは待っていた。自分の気持ちを試すためでもあったんだと今なら分かる。


 「・・・ま、義姉さん?」

 雪を踏みしめる音で顔を上げると帝君がそこにいた。

 「おかえり・・遅いよ」
 「こんな所でこんな時間に何をしているんですか!?」

 彼の慌てた様子を久しぶりに見て自然、笑顔になる。

 「帝君、待ってたの」
 「!?・・こんなに体が冷えて・・早く中へ」

 慌てて屋敷の中へ引き入れようとする少年の腕を押し留める。

 「話があるの・・聞いて」
 「後で聞きますから・・」
 「あのね、あたしパーティーは一人で頑張るから」

 え、と帝君は目を見開く。

 「それで、パーティーが無事終わったら・・聞いて欲しい事があるの」
 「今ではいけないんですか?」
 「駄目なの」

 そう言って笑うと困惑したように目を瞬かせた彼は絶対分かっていなかった、その聞いて欲しい事が告白、なんて。









 政財の大物、と言われる方々と会話しながら横目で時計を見るとパーティーも残り2時間となっていた。

 2時間後、あたしと帝君の関係がどうなるのかなんて――誰にも分からない。    











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