ドキドキと鼓動が速まる。手を通してそれが流架君に伝わらないかとあたしはぼんやりと考えていた。

 手を離すタイミングも歩き出すタイミングも完全に失って、ただお互い繋がれた手を見詰める。
 冷えた空気の中、沈黙は決して重苦しいものではなかった。むしろ心地良いとすら感じられて。

 こうしていると彼を好きだったあの頃の淡い感情が鮮やかに思い出された。想いが届かないと分かった時のショックや儚い期待、その全てが。


 「・・・ありがとう」

 手を見詰めたまま呟くと、弾かれたように流架君が顔を上げたのを感じた。けれどあたしは俯いたまま少しだけ手に力を込める。

 「流架君がいてくれて良かった・・」
 「茉莉・・・」
 「でも、あたし、このままじゃ流架君に甘えちゃう・・それじゃいけないと思う。結局二人とも傷付く事になるから・・」

 最後にぎゅっと握りしめて手を離す。

 「あたしは帝君が好き。例え結ばれなくてもこの気持ちを大切にしていきたい」

 はっきり思い出したから、ただひたすら突き進んでいたあの頃の気持ちを。
 想いが届かないからってそれが何?あたしは何を臆病になっていたんだろう。それでも構わない、と流架君を好きになったあの頃の気持ちはどこに忘れてきたの?

 帝君なんてもっと辛かったはず。それでも諦めずに一途にあたしを想ってくれて、助けてくれて・・・あたしは彼にそれを返せるだろうか。

 「帝君だって一人で苦しんだはず・・・だからあたしも誰かに頼っちゃいけないの」

 もう手遅れかもしれない。拒絶されるかもしれない。考えるだけで怖いけど、それでも――

 「この気持ちに嘘はつけないから」


 言って、真っ直ぐに目の前で呆然と立ち尽くす少年を仰ぐ。
 流架君はしばらく色素の薄い栗色の目を見開いて驚いているようだったが、すぐにいつもより少しだけ儚げに微笑した。

 「・・そう、言うと思った・・」
 「え?」
 「・・ん・・茉莉、らしい・・・」
 「流架君・・・」
 「・・気持ち、よく、分かった」
 「うん」
 「これから、は・・友達として・・応援、する」
 「・・・・え?」

 友達としてって・・・。

 「俺と友達・・・嫌?」
 「まさか!もちろんそう言ってくれて嬉しいけど・・」

 このまま気まずくなって話せなくなる辛さをよく分かっていたからその申し出は願ったり叶ったりだった。だけど、流架君はそれで大丈夫なんだろうか。
 あたしは彼に振られた時、辛くて辛くて顔も見られなかった・・・でも会いたい気持ちはあって・・。

 「俺も・・同じ、だから・・気にしなくていい」

 ふわり、と柔らかく微笑む彼はきっと真実そう思っているんだろう。

 「ありがとう・・」
 「俺も・・ありが、とう」

 彼に出会って、恋の悲しみや辛さも知ったけど、やっぱり出会えて良かったと思う。
 今度はあたしから手を差し出すと彼は自然と握り返してくれた。

 その瞬間、あたしの心の中で一つの気持ちがようやく決着したのだった。    











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