どのくらい経っただろう。泣きすぎてぼんやりする頭ではよく分からなかったが、御影君のぐっしょりと濡れた服を見れば数分、と言うわけではないようだ。

 「ごめ・・もう、大丈夫だから」

 顔を上げて彼の綺麗な顔を間近で見た途端、ようやく頭が覚醒した。

 冷静になるとかなり恥ずかしい事をしているんじゃないの?縋り付いて泣くなんて・・・。

 思わず勢い良く御影君から飛びのいてしまった。

 「・・・茉莉」

 何をやってるんだ、あたしは。御影君は不思議そうに顔を真っ赤にするあたしを見ている。
 何か言わなくちゃと頭をフル回転させても気の利いた言葉は見付からない。

 「あ・・えと・・」
 「どっか行こ」


 ・・・・・・。


 「え?」
 「気分、転換」
 「・・・あ、いいね、うん」

 突然の申し出に慌てたけど、このまま彼のいない屋敷に篭っていても落ち込んでいくばかりだろう。確かに外に行くのは気分転換にも良い。

 「じゃぁ車用意しなきゃ・・・あ、車で来たよね?ならそれで・・」
 「歩いて来た・・・から、歩いて、行こ」
 「・・・・・・そうだね。たまには歩こうか」

 彼の家からここまで歩けばどのくらいかかるのか、とか考えちゃいけない。
 必死に笑顔を作って頷くとすぐに手を握られた。

 「嬉しい」

 言ってあたしが弱い笑顔を花開かせる。今度は羞恥心とは別に頬が染まったのが分かった。









 皆あたしが歩いて出かけるなんて危ないって慌てたけど何とか説き伏せて、と言うか逃げて来てしまった。
 一回誘拐されかけているだけあって余計心配するのだろう。

 「・・寒いね」

 はぁ、と息を吐き出すと真っ白になる。キン、と冷めて張り詰めた冬の空気があたしは好きだ。
 突然の事だったから最小限の荷物と防寒具だけ持って来た。けれど手袋を忘れてしまい、手を擦り合わせながら隣を見上げる。

 「どこ行くの?」

 軽い気持ちで言ったのに、御影君はふいに立ち止まり考え込んでしまった。まさか、行き先も考えずに出掛けようなんて言ったんじゃ・・・。

 「・・・ごめん」

 そのまさかだったようだ。でも彼を咎めたりする気はない。あたしのためを思って連れ出してくれたんだから。事実あたしは今とても気分が良かった。

 「気にしないで。よく考えたらあたしも家の近くなのにこの辺歩くの初めてだし、一緒にブラブラしよ」

 もう大丈夫、と言う意味も込めて目尻を下げると彼はホッとしたように白い息を吐くと右手を差し出して来た。
 意図が分からず、彼の綺麗な手のひらと顔を交互に眺めると、

 「手、寒い。繋ごう」

 言って、あたしの左手を揺らす。
 握られた手は氷のように冷え切っていて、驚いて手を引き抜こうとすると拒むように彼の手に力が入る。

 「あの・・っ」
 「拒まないで」

 仰ぎ見る整った顔は真剣そのものでドキリとする。

 「・・・好きに、なって、なんて・・言わない。だけど・・一人で泣かないで。泣きたくなったら・・俺、呼んで」
 「そんな事・・・!」

 彼の気持ちを利用するような事、これ以上出来ない。

 「・・いいんだ。オレでいいなら、いくらでも利用、して。それで茉莉、笑うならオレも嬉しい」
 「流、架君・・・」

 繋がれた手が熱を持ち始めるのに時間はかからなかった。  











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