「どぉぞ」
 「・・・ありがと」

 メイドさんを下がらせてあたしの部屋で二人だけのティータイムをする事になった。
 二人分の紅茶をテーブルに置くと、何だか妙に緊張しながら彼の前に座る。

 チラッと様子を窺うと静かにカップに口を付けている。少しも変わった様子はない。
 逆にあたしの方が焦ってしまう。そう言えば告白、されたんだよね。

 告白された上に頬にだけどキス・・・までされて。うわっ、何だか思い出しただけで顔が赤くなる。

 「・・どしたの?」

 天然なのか計算なのか、可愛らしく目を瞬かせて首を傾げる。もう慣れてもいいのにいつまでたっても反応してしまう自分に腹が立つ。

 このままじゃ駄目だと、必死に深呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻してから口を開く。

 「あのさ、御影君?」
 「・・・流架」
 「へ?」
 「御影君、じゃなくて・・・流架、でいい」
 「ル、カって・・呼ぶの?」

 小さく頷くと彼はあたしが呼ぶのを待っている様に期待に満ちた眼差しで見てくる。それから逃れるように俯くとゴクリと息を呑む。
 せっかく落ち着いたと思ったのにあたしの心臓はまたバクバクと早鐘を打ち出した。急にそんな事言われてもどうしたらいいか・・・。

 戸惑うあたしに気付いたのか、彼は少し考えた後とんでもない事を言った。

 「じゃぁ・・・オレ、も・・茉莉って呼ぶ」

 弾かれた様に顔を上げると天使の微笑みと共にもう一度名前を呼ばれた瞬間、あたしの中の何かが決壊した。

 「もう無理!!!」

 突然立ち上がって絶叫するあたしに御影君は目を白黒させていたけど、そんな事知った事ではない。驚く彼に詰め寄って溜めに溜め込んでいた心の内をぶちまけた。

 「その天然タラシ、止めてくれる!?あたしはねぇこう見えても女子高育ちで男に慣れてないのよ!あんな・・あんな、キスとかどうしたらいいのか分からなくなるの!いきなり好きだって言われても信じられるわけないでしょ!?大体あたしが告白した時断ったじゃないの!なのに今更・・!」

 叫んでいる内に感情が高ぶって、振られた時の辛い気持ちとか一気に蘇ってきて目頭が熱くなる。

 「大丈夫だったのに・・やっと気持ちに決着がつけられると思ったのに・・どうしてまた・・!」

 嫌だ、もう嫌。帝君も御影君もどうしてあたしを振り回す事ばっかりするんだろう。

 ついに大粒の涙が頬を伝い、落ちてカーペットに染みを作る。

 「もう放っておいてよ・・会いに来たりしないで」
 「・・ごめん・・でも、無理・・だよ」

 いつのまにかあたしを見下ろす形で彼も立ち上がっていた。色素の薄い瞳は気遣いの色を見せながらも強い決意を滲ませている。

 「・・・好き、って・・分かったから」
 「だって・・シェリスさんは?」

 御影君には一生愛し続けると誓ったシェリスさんがいる。そのためにあの時の告白は断られたのに。

 シェリス、と言う名に彼は傷ついた様に目を伏せた。

 「・・もちろん、忘れて、ない。・・だけど・・茉莉も・・好きだって・・分かって・・」
 「・・・・・・」
 「・・最初、すごく悩んだ・・これは・・シェリスへの、裏切りだって・・」

 でも、とあたしを真っ直ぐに見詰める彼の目にはもう迷いがなかった。

 「・・止められなかった・・・茉莉、への思い・・」
 「―――っ!」

 滲む視界に御影君のフランス人形のように綺麗な顔が近付いて来るのが分かったのに、ショックで動けなかった。


 このままだと―――キスしちゃう。


 刹那、脳裏に意地の悪そうな黒髪が過ぎった。

 「駄目!」

 気が付いたら腕を突っ張って御影君を退けていた。驚いた彼と共にあたしもまた無意識の行為に心底驚愕していた。

 「あたし・・・?」


 どうして今、彼が脳裏に浮かぶの。今頃他の女の子を腕に抱いているだろう彼を。  











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