1
「誕生日?」
冬休み中、いつもよりも遅い朝食を取っているとメイドさんが思いがけない事を言ってきた。
「はい、もうすぐ帝様の誕生会が盛大に催される予定とか。各界の有名人も大勢いらっしゃるらしいです」
「え?帝君の誕生日っていつなの?」
「12月25日です」
クリスマスかよ、と心の内で思わずつっこみを入れてしまった。聖なる夜にあの悪魔が生まれたなんて何て言う皮肉。
「勿論お嬢様もご出席するのですよ?明様も愛美様も帰国出来ないそうなのでお嬢様が帝様の唯一のご家族です」
「家族・・・」
食事の手を止める。家族と言う二文字がどうしてかあたしの心に重く響いたのだ。
あのダブルデート以来、彼は文字通り家族としてあたしに接してきた。それをずっと望んでいたはずなのにどうしてだろう。
義姉さん、と偽りの笑顔を向けられても、敬語で丁寧に話されてもちっとも嬉しくない。あたしが望んでいるのはもっと別の――
「お嬢様?」
メイドさんの言葉にはっと我に返る。あたしは今、何を考えていた?
フォークを持つ手にじとりと嫌な汗をかいている事に気付く。駄目だ、こんな事考えちゃいけない。
慌てて食事を再開し、それに集中しようと努める。きっとまだ寝ぼけてるんだわ。そうじゃなかったらこんな事考えるはずないもの。
だけど考えないようにしようとする事は考えている事と同義だ。事実、あたしはまた考えてしまっている。
最近また帝君は夜遊びをするようになった。どこへ行っているかなんて分かってる――彼を待つ女の子の元なんだ。
あたしに好きだと言ってからそんな素振りを見せなかったのにこれ見よがしに出かけて行く少年。嫌がらせか何かだろうか。
ムカムカとパンを口に放り込むとメイドさんがそう言えば、と思いついたように言った。
「帝様は今日も朝早くからどこかへお出かけなさっているようです。最近外出が多いですね」
「あっそう」
「お嬢様もせっかくの冬休みですからご予定などは?」
「ないですけど!」
メイドさんに悪気はないのは分かってるけど今のあたしには辛い言葉だ。どうせあたしは帝君と違って遊びに行くようなところも遊んでくれる人もいないわよ。
ますますイライラするあたしにメイドさんが首を傾げていると、急に廊下の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「?一体どうしたのでしょう」
少し様子を見てきます、と扉を開けた瞬間だった。視界に柔らかそうな栗色が飛び込んで来てあたしは瞠目する。
「桐、堂・・・!」
「御影く・・・ぐっ、ごほっ!」
あまりの驚きにパンを喉に詰まらせてしまった。あたしの苦しそうな様子に御影君も珍しく表情を変えて慌てた風に近寄り、背中を擦ってくれた。
「桐堂・・だいじょぶ?」
あんたのせいだろうが、なんて御影君相手に訴えられるはずもない。
何とか水を飲んで落ち着かせると当然の疑問をぶつける。
「・・何で、ここに?」
「・・会いたかった、から」
「え?」
どうせ暇だった、とか何となく、とかそんな言葉しか出て来ないと思ってたのにこれは不意打ちだった。
「桐堂に・・会いたかったから・・・会いに、来た」
不意打ちにそんな笑顔見せられたら・・・また心が乱れてしまうのに。
BACK NOVELS TOP NEXT