序
家に帰ったシンデレラはけれども王子様を忘れる事は出来ませんでした。むしろ会わない事でますます恋しさを募らせていったのです。
舞踏会はまだ続けられ、王子様に会いたい一心の娘たちは足繁く城に通いつめます。
彼女達の話を聞くたびに、噂話を聞かされるたびにシンデレラは涙しました。
”もう王子様は私のことなど・・・”
王子様を試すなんて真似をしたからいけなかったんだわ、とシンデレラは酷く後悔しました。こんなことならもっと早く城へ行っていれば良かったのです。
今日もきっと色々な女性とダンスをしている事でしょう。シンデレラにはそれを見る勇気などありません。
”王子様・・・”
毎夜城を見詰めて物思いに耽っているシンデレラはようやく自分の気持ちに気付きました。
”私は王子様の事・・・好きなんだわ”
王子様の事を考えれば胸は痛み、苦しくなるのはそのためだったのです。
しかしもう何もかもが手遅れでした。王子様はもうシンデレラの事など忘れてしまったでしょう。
こんな事ならこの気持ちに気付かなければ良かったのに、不幸なシンデレラはしかし知ってしまいました。狂おしいほどの恋心を。
可哀想に、シンデレラはあまりの事に涙しました。こんな気持ちは初めてでどうすればいいのか分からなかったのです。その気持ちが恋だと気付くとますます困惑するしかありません。
その時でした、泣きじゃくるシンデレラの耳に声が聞こえてきたのです。
”想いを告げなさい”
驚いたシンデレラは辺りを見回しましたが誰もいません。耳を澄ませてみてももう何も聞こえる事はありませんでした。
”想いを・・・告げる・・・?”
思ってもみなかった事です。この気持ちを王子様に伝えるなど。
けれども王子様はシンデレラに気持ちをぶつけてくれました。今度はシンデレラが返す番ではないでしょうか。
例えもう駄目だとしても気持ちはすっきりするでしょう。いつまでも物思いをしているわけにはいきません。
”想いを告げる・・・!”
涙を拭い、シンデレラは挑むような目付きで城を仰ぎました。
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