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「・・・ダブル・・デート・・?」
きょとんと目を丸くする御影君は果たしてダブルデートの意味を分かっているのだろうか。
しばらく見守っていても相変わらずなので念のために説明すると、思いがけなくあっさりとOKが貰えて拍子抜けしてしまった。
「・・・いいよ」
「いいの!?そんなあっさり!?」
「・・え、だって・・・遊ぶ、だけ・・でしょ」
何か不味い事でも、と小首を傾げられると反論出来ない。確かに遊ぶだけなんだからそんなに堅くならなくてもいいのかもしれない。
お金持ちのデートがどんなもんかなんて想像もつかないけど、御影君がいてくれるなら少しは気持ちも和むと思うし。
「・・ありがとう・・御影君しか誘える人がいなくて・・・振った相手に誘われるのも迷惑かな、って思ったんだけど良かった・・」
うっかり言葉に出してしまった。御影君はその言葉にハッとしたように顔を上げて、少し戸惑うようにあたしを見る。
「振った・・あ・・桐、堂・・」
「ご、ごめん!本当に困らせるつもりじゃないの!今更どうにかなりたいとかそんな事思ってないから安心し・・」
て、と続くはずの言葉は御影君の思わぬ行動により遮られてしまった。
「・・もう・・思って、くれない・・?」
彼の温かな手があたしの頬を包み込んだのだ。
フランス人形を思わせる彼の美貌のドアップは色々キツイ。ドキドキしながらも睫毛長すぎ、とか肌白すぎ、とか自分でも意味不明な事ばかり考えてしまう。パニックだ。
「ど、どど、どうしたの?御影君?」
「・・・デート、楽しみ・・ね?」
「・・・・・・へ?」
この時の彼の笑顔はいつものふわりとしたものではなく、満面の笑みだった。無邪気で幼い少年のようなそれにあっけに取られてしまった。
「本当にどうしたの?何かいつもと違う・・・」
「・・嬉しい・・桐堂・・来てくれた、から」
ニコニコと喜びを隠そうともしない素直な彼があたしは酷く新鮮に見えた。帝君は・・こんなに素直に笑ったりしない。
いつのまにか帝君の事を考えている自分がいる。考えないようにしているけど、それは彼の事を考えてしまう事とイコールなんだ。
「・・桐堂?」
御影君を前に他の事を考えるなんて最低だ、あたしは。利用していると取られてもおかしくないのに素直に喜んでくれる彼を見ていると辛くもあり嬉しくもある。
「ごめん・・何でもない・・ダブルデートなんだけど実は予定が何も決まってなくて、多分冬休みに入ってからになると思うんだけどどうやって連絡取れば・・?携帯とか持ってる?」
「携帯・・・持ってる・・けど・・使わない」
今時の高校生としてどうかと思うけど御影君がせわしなくメールを打っている姿は想像しにくい。いつも時間に囚われず寝たりヴァイオリンを弾いているから携帯なんて持っていても意味ないのかな。
「そっか・・じゃぁどうしようか」
「・・・決まったら・・家・・来る」
「へ?・・・それって予定が決まったら御影君の家に行けばいいって事?」
「ん・・場所、は運転手が分かる、はず」
「え、そんな・・突然お邪魔したら・・」
「・・だいじょぶ・・」
力強く頷かれたらもう行くしかない。ちょっと戸惑うけど御影君の家と聞いて好奇心の方が勝ってしまった。
「・・じゃぁ・・・予定が決まったら・・行く」
「・・・ん・・待ってる」
ドキリとした。待ってる、がいつもの片言じゃなくてしっかりとした響きを持っていたから。
「じゃ、じゃぁ運転手さん待ってるからもう行くね?」
何とも言えない雰囲気に耐え切れなくなって逃げるようにあたしは音楽室から出た。最後にチラリと見た御影君はまだ嬉しそうに微笑んでいた。
「・・・っ」
相変わらず彼の笑顔は凄い威力だ。凄く恥ずかしくなってきてあたしは走り出していた。顔の赤さを走ってしまえば誤魔化せるんじゃないか、と思ったのだ。
忘れていたけれど、御影君はフランスからの帰国子女で、天然タラシなんだ。
「心臓に悪い・・・!」
あたしの周りにいる男は皆きっとあたしを早死にさせたいんだ、そうに違いない。
そしてあたしはそのまま佐々木さんの待つ駐車場まで全速力で行った。心臓が張り裂けそうだった。
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