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屋敷に帰るとすぐにメイドさん達がやって来た。いつもの出迎えとは違うな、と思っていると、
「お嬢様にお会いしたいとお友達がいらしております」
「友達?」
一体誰だろう。学園で友達と呼べる人は薫子しかいないし・・・ってあたしって意外と友達少ないんだな。
何だか虚しい気持ちに囚われながらその友達がいると言う部屋に案内してもらう。
しばらく広い屋敷の中を歩いているとメイドさんがある扉の前で止まった。同じような扉が他にいくつも並んでいるので沢山ある客室の一つなんだろうな、とぼんやり思う。
「ここでございます。私は今飲み物を持ってまいりますので」
「あ、はい。ありがとうございます」
ドアを開けてもらってドキドキしながら中に入ると、外国製の高級なソファーに座っていた人物が勢いよく立ち上がった。
「茉莉ちゃん!!」
「え・・うわっ!?」
突然その人に飛び掛られて・・いや、抱き付かれて何の準備もしていなかったあたしは後ろに倒れそうになるがなんとか踏みとどまった。
抱きつかれているせいで相手の顔が見えない。だけどさっきの声と雰囲気でそれが誰であるかすぐに分かった。
「美子・・・!どうしてここに・・」
「謝りたかったの・・私・・だけど茉莉ちゃん突然転校しちゃうし・・私、何度も会いに行こうと思ったんだけど勇気が出なくて・・」
途中は涙声だったけどはっきりと聞こえた。胸に暖かいものが宿り、あたしは思わず顔を歪めていた。
「美子・・あたしの方こそごめん・・何の連絡もしないで・・」
「怒ってないの?・・今日、電話したんだけど出てくれないからまだ怒ってるんだと思って私・・」
「電話?」
そういえば今日は一回も見ていない。ずっと鞄に入ったままだった。慌てて確認すると確かに美子から何度も電話が来ていた。
「ごめん・・ちょっとバタバタしてたから気付かなかった」
「本当に?もう怒ってないの?」
「当たり前でしょ!あたしの方こそ酷い事言ってごめんね」
「茉莉ちゃん・・・っ!」
「美子・・・!!」
今度こそひしりとお互い堅く抱き締めあう。あぁ・・あたしにはいたんだ・・大親友が!!
友達が少ない、と打ちひしがれていた心が一気に軽くなるのが分かった。ただ友情を確かめ合ってただけ・・・なのに、
「失礼します。お茶を・・・!?」
メイドさんにはそうは見えなかったらしい。まぁ無理もないだろうけど、疑いの眼差しだけは止めていただきたい。
挨拶もそこそこに部屋を出たメイドさんにきちんと後から説明しないと明日には凄い噂が流されていそうだ。
「茉莉ちゃん?」
「あ、ごめん。何でもない!お茶飲むよね?入れるよ」
気を使ってくれたのか勘違いをしたのかメイドさんはお茶を入れてくれる間もなく出て行ってしまったので慣れない手つきで何とかティーカップに紅茶を注ぐ。
そして椅子に座ってカップに口をつけて一息つくと、美子が何だか物憂げな顔をしている事に気付いた。
瞬間、あたしはようやく美子となぜ喧嘩してしまったのか思い出して青ざめる。
そうだ、美子は帝君が・・・・。まさか、まだ・・・?
「ね、ねぇ美子?」
「ん?何?」
顔を上げても心ここにあらずの美子にますます不安は募っていく。
「あのさ・・まさかまだ帝君に気があるなんて事は・・・ない・・よね?」
「え!!」
笑えるほど素直に反応を示してくれた。顔はサッと赤く染まり、恥らうように俯いてしまう親友にあたしは声を大にして言いたかった。
帝君がいいのは分かる。だってあの顔だし、本性を知らなければ誰だって惹かれるに決まってる。でも奴の正体は・・・
思わず否定の言葉が飛び出しそうになるが、何とか堪える。そんな事をしたらまた無駄な喧嘩をしてしまう事になるかもしれない。
かと言ってむざむざ美子が傷つくのを見ている事も出来ない。
どうしよう・・・。
頭を抱えたい気持ちを堪えて紅茶を流し込んでいると、美子が突然力強い声で茉莉ちゃん、と言った。
「私・・こんな気持ち初めてなの。話した事もないのに変だと自分でも思うわ・・でも・・押さえられないの」
「・・・な・・何が・・?」
「・・・私・・帝君が好きだわ」
やっぱり。恐れていた事が起こってしまった。どうして次から次へと問題が・・・!あたしに安穏とした生活は送れないわけ!?
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