帝君が大怪我をした事はどこから漏れたのか、すぐに学園中に知れ渡ってしまった。最近学園を休んでいる事を不審に思ったファンの女の子が調べたんだろうとあたしは考えている。

 そしてそれから帝君のいないあたしの平和な学園生活は崩壊したのだ。

 「だから命の別状はないの。怪我の原因?あ〜・・家の階段から転げ落ちたのよ」

 これを言うのもかれこれ21回目だ。怪我の原因は勿論口からでまかせで、かなり間抜けな事になってしまい後でかなり嫌味を言われるだろう。
 女の子達も予想では、ダサいとか思ってがっかりするだろうな、と思ったのに全く逆で、

 「階段から落ちるなんて、帝様ってば何てお可愛らしいの・・!」

 何だか頬を染めて母性本能をくすぐられまくっている。あたしからしてみたら階段から転げ落ちるなんてどこのアホだ、と思うのだけどそれが帝君なら話は別らしい。美形は本当に得だ。

 帝君は早々に退院して自宅で療養を続けている。曰く病院なんて落ち着かない、らしい。あんなにいたせりつくせりだったのに。
 でも毎日何人も看護士のお姉さんが交代で病室を訪れる事にはさすがの帝君もげんなりしていたから仕方ないかもしれない。

 なんとか人込みから抜け出してそのまま職員室へと向かう。もっと早くに行きたかったけれど時間がなくて、と言うか広大な学園内で職員室にたどり着けなくて今まで行けずじまいだったが、今日こそは。

 目的はただ一つ、寺内だ。


 「3年の寺内譲・・・?あぁ、彼なら退学したよ」
 「退学・・・!?」

 思いがけず大きな声を出してしまったせいで一斉に先生からの視線を浴びてしまう。恥ずかしく思いながらもあたしは詳しい話が聞きたくて身を乗り出す。

 「どうして突然退学なんて・・・?」
 「詳しい話は分からないんだが、どうやら経営している会社が倒産の危機らしい。学校に行っている暇もないのか、それにしても突然でこちらも把握出来ていないんだよ」
 「そ、そうですか・・」

 突然あの会社が傾くのも不思議だ、と今だブツブツ言っている先生を横目にあたしは全てを悟ってしまった。

 犯人は帝君に間違いない。寺内をどうしてやろう、と言った時の彼の目は魔王のそれだった。思えば何かコソコソと電話したり指示をしていたので変だな、とは思っていたけれど・・・

 「会社まで潰すなんて・・・やりすぎよ、あいつ」

 どんな方法を使ったのか、どうせあたしが聞いても分かるはずないし、そもそも聞きたくない。何やら犯罪の匂いがするのはおそらく間違いないだろう。

 改めて帝君の権力を思い知って、ますます壁があつくなっていくのが分かる。

 ママからの電話以来あたしは極力帝君と距離を取ろうと思った。それには彼の怪我は好都合だった。
 いつもメイドさんが彼に付いているから二人きりになる事はないし、部屋からもあまり出られないから顔を合わせる事も減った。

 時々義姉として義弟をお見舞いしたりするけれど、ほとんど義務的なものだ。きっと鋭い彼の事、あたしの変化に気付いているだろう。



 「ありがとうございました」

 ペコリと頭を下げて職員室を後にする。

 重い足取りで教室に向かいながら頭の中でママの言葉を反芻した。

 ――帝君は義理とは言えあなたの弟・・れっきとした家族なの。

 そう、帝君は家族。家族だ。家族なんだ。


 必死に言い聞かせていたから気付けなかった。鞄の中でバイブ設定にしてあった携帯電話がブルブルと震えていた事に。

 その電話があたしと帝君とそれから御影君にとってとても重要なものであったなんて。  











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