序
王子様の熱意に負けてついにシンデレラは舞踏会に出る事にしました。
再び身に付けるドレスに煌びやかな宝石の数々にはまだ慣れませんが、王子様のためと思えばです。
そしてはやる気持ちを抑えながら城へ行くとシンデレラは驚きに立ち尽くしてしまいました。
”王子様・・・?”
何と王子様が他の女性とダンスをしていたのです。シンデレラは目を疑いましたが、王子様とその女性は優雅に、そして楽しげに踊っていました。
”どうして・・・”
体を震わせて涙を滲ませるシンデレラの姿はとても痛ましいものがありました。
楽しげな二人の姿を見ていられなくてシンデレラは踵を返しました。
どうして、どうしてと反芻しながら庭に出ると誰かの噂話が聞こえて来ました。
”王子も最近は色々な方と踊るようになられたな”
”噂によると懸想していた女性に断られて自暴自棄になっておられるとか”
”それで様々な女性で失恋の痛みを癒そうと・・・?お労しい事だ”
話を聞いてシンデレラはすぐに王子様を振ったのは自分なのだ、と分かりました。
決して王子様の心を無下にしようとしたわけではなかったのですが結果的には同じ事です。彼の誘いを何度も断っていたのですから。
あぁどうしましょう。王子様はもうシンデレラの事を忘れてしまったのです。
皮肉な事にシンデレラの方は王子様への思いをようやく固める事が出来たと言うのに。
可哀想なシンデレラはその場に泣き崩れてしまいました。
”こんな事なら舞踏会なんて初めから来なければ良かった・・・”
そうすればこんな辛い思いをする事もなかったのですから。
その後どのくらい泣いていたでしょう。それでも溢れてくる雫を止める事も出来ずに可哀想なシンデレラはようやく歩き始めました。
”帰りましょう・・・もう王子様の事を忘れなくては”
元の生活に戻れば二度と王子様と会う事はないでしょう。時間が経てばこの思いもきっと薄れてくれるに違いありません。
”さようなら・・王子様”
最後にもう一度だけ城を振り返るとシンデレラは魔法の馬車に乗り込みました。
パタン、と扉が閉まる音と共にシンデレラの淡い恋心も静かに終わりを告げたのです。
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