11
日も沈みかけた夕暮れの空を仰ぎながら大きく伸びをする。
人も随分減って来た。後30分くらいで閉園だ。あれから御影君が行く所どこにでも付いて行って、ほぼ全てのアトラクションを制覇してしまった。
あたしと美子はちょっとグッタリ、御影君は相変わらず分かりにくいけど楽しそうで、帝君に至っては先程から何もしゃべっていない。
気付かれないように目線だけを向けて様子を窺うと、今にも倒れそうな顔色で目も空ろだ。
原因はもう分かってる。無理するなってあれほど言ったのに御影君に対抗するように絶叫マシーンに乗り続けたせいだ。
「・・・もう帰ろうか」
「そうね・・疲れちゃったし」
せっかくあたしと美子が気を使ったのにひたすら我が道を行く御影君はそんな事に気付きもせず、
「・・最後・・あれ、乗る」
ほんわかした笑顔で観覧車を指差した。その瞬間、帝君の頭から悪魔の角が生えたのが見えたような気がしたが、多分見間違いじゃない。
「ふ・・・まだ乗ろうと言うのですか?随分子供じみたものがお好きなんですね・・確か僕より年上でしたよね?」
「・・だって、まだ・・子供、だもん」
「!!!」
あたしも帝君のようにかなり衝撃を受けた。彼の嫌味が全く通じないばかりか素直に認めたのだから。
しかも・・・だもん・・だもんって!!何か日本語の使い方がおかしい気がするけど何故か彼が言うと可愛らしく思えるから不思議だ。
「・・だから・・あれ、乗りたい」
駄目?と言う様に潤んだ瞳に見詰められついに帝君も落ちた。天然には敵わないんだ、きっと。
「綺麗だね!」
「ん・・・そ、だね」
観覧車は4人で乗る事も出来たけれど最後だし一応ダブルデートと言う事であたしと御影君、美子と帝君の2人ずつで乗る事になった。
ちょうど夕日が出ていて眺めは最高だった。外を見ていると少し下に位置する観覧車の中から帝君がこちらを睨んでいてドキリとした。
角度的にすぐに見えなくなったけど、何だかずっと監視されている気分になって落ち着かない。あたしなんかより美子ともっと話してくれればいいのに。
夕日を見ていると何だか物悲しい気分になってくる。色々大変で疲れたけれど面白かったし、もう終わってしまうのかと思うと寂しい。
「・・・ね、桐堂・・」
「え?」
しんみりとした雰囲気を破ったのはいつもは無口な御影君だった。慌てて外から彼の方へ顔を向けてますます驚いた。
夕日に照らされ、色素の薄い栗色の髪は透き通るほど輝いて、同色の瞳も夕日の赤みを帯びて不思議な色合いを出していた。
真剣な眼差しもキュッと結ばれた唇も何だか御影君じゃないみたいで・・・。
「どうしたの?」
「・・・桐、堂・・言いたい事、ある」
「改まっちゃって・・何?」
鼓動が早まる。本能がこれはいつもと違う、と訴えてきた。一体何なの?
「・・上手く、言えないから・・フランス語で、言う・・」
「うん・・・は!?」
だけど御影君はわけの分からない言語(フランス語なんだろうけど)を流暢に話し出してしまった。日本語の時とは違って凄くハキハキ話す姿に呆気に取られる。
やっぱり彼の母国語はフランス語なんだわ。外国語じゃ上手く自分の気持ちを表現出来ないから皆に誤解されてるだけで、本当は凄く活発な人なんじゃ・・・。
あたしがポカンとしてる間に彼は何だか時折顔を赤らめながら話し続け、最後に息を飲むとこう言った。
「・・・スキ」
・・・スキ?隙?鋤?すき・・す、き・・・好き!?
「は!?いや、あの・・そのスキってのはどのスキ・・・で?」
「・・・フランス語、で一番分かりやすく、言う・と・・ジュテームか、な」
ジュテーム・・・愛してる・・・?
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
思わず立ち上がった拍子にバランスを崩した観覧車が大きく揺れたけど、今はそれどころじゃなかった。
BACK NOVELS TOP NEXT