10
「・・・大丈夫?」
美子の気遣わしげな声に小さく頷いた帝君の顔はしかし真っ青ではっきり言ってちっとも大丈夫そうじゃない。
やっぱり遊園地初体験でいきなりジェットコースターは厳しかったみたい。だから言ったのに、強がっちゃって。
「・・おもしろ、かた」
青褪める少年とは逆に御影君の顔は興奮に赤らんでいた。乗っている最中も叫ぶ事はしなかったけど小さくワー、とかオーとか言っていた。
「今度、あれ乗りたい」
ちょっと上ずった声で指差した先にはまたもや絶叫アトラクションがあった。連続で、と思ったけど彼の子供のように無邪気な顔を見ていたらつい、
「うん、乗ろう!」
笑顔で賛同してしまう。だけど青褪めた帝君を見る限り、今絶叫系は無理だと思う。どうしようか相談しようとしたのに、いきなり腕を引っ張られてあたしはよろけた。
「うわっ!?」
「桐、堂・・早く・・!」
待ちきれなくなったのか御影君がグイグイと腕を引っ張る。焦って振り返ると美子が帝君の顔を濡れたハンカチで拭いてあげていた。
「―――っ!・・美子!」
自分でもわけが分からず焦って思わず叫んでしまっていた。
「あー・・こ、これから御影君と絶叫めぐりするから二人も適当に遊んでて!またメールする!」
咄嗟にしては随分都合よく口が回ったものだ、と思う。むしろこうした方が良かったんだ・・美子だってきっと帝君と二人きりになりたかったはずだし。
「え、茉莉ちゃん!?」
真っ赤になって、焦っちゃって、でもどことなく嬉しそうな顔の美子を可愛いな、と思いながら帝君には視線を向けずにすぐに正面に向き直った。
「・・・あ、れ?二人、は?」
列に並んでようやく御影君は不思議そうに首を傾げた。本当に一つの事に目が行くと周りが見えないと言うか何と言うか。彼の方が弟みたいだ。
「別行動にしたんだよ。これからあたし達は絶叫めぐり、でしょ?とことん付き合うよ」
「ん・・ありがと」
「ど、どういたしまして!」
やっぱり彼の笑顔には弱いあたし。火照る顔を隠すようにパンフレットを広げる。
「これ乗ったら次何にしようか?ここ絶叫系多いから色々あるんだよ!これなんて面白いと・・」
「・・どれ?」
パンフレットを覗きこもうとする御影君。必然的に距離は縮まり、触れ合った肩から彼の温もりが移った様にあたしも熱を帯びていく。
こんな美形の男の子とこんな至近距離でなんて、女子高育ちのあたしには耐えられない。しかも御影君は意図してやっていないんだからさらに達が悪い。
「・・桐、堂?」
「あの〜ちょっと近いかな〜なんて・・」
「何が?」
「距離が・・あの・・その・・」
上手く言えずにしどろもどろになってしまう。話す時は目を見て、なんて日本の文化にはないんだけど御影君はそうじゃないようで思いっきり顔を背けるあたしを覗き込んでくる。
「桐堂――」
「そこまでです」
鋭い声がした刹那、首が軋むほど曲げられて悲鳴を上げる。
何とか頭を掴んでいた手から逃れて顔を上げると相変わらずの青褪めた顔に怒りを乗せた義弟がいた。
「え、どうし・・」
「僕もこのアトラクションに乗ろうと思いまして」
「は?だって気分が悪い・・」
「この僕がジェットコースターごときでまいるわけないでしょう?」
まだ顔も青いし足元だって覚束ないくせによく言う。
それから帝君は鋭い目つきそのままに御影君を睨んだ。
「・・・ところで御影流架さん?」
「・・ん?」
「ここはフランスじゃなくて日本なんです。それに義姉さんは女子高育ちで男性に免疫がありません」
「???」
「もう少しご自分の行動を考えて頂きたいですね」
御影君はいまいち意味を理解していないみたいだ。それも仕方ない・・・早口で捲くし立てるんだから。
何だかんだ理由を言いつつあたし達の後ろに並ぶ帝君。美子が困惑気味にこっちを見てる。
あぁもう・・・。この微妙なダブルデートはまだまだ続きそうだ。
BACK NOVELS TOP NEXT