ゴロゴロと何度も寝返りを打つが、眠気はいつまで経ってもやって来ない。眠ろうと思ってもどうしてもパーティーで言われた言葉が頭に響いてくる。気になることがあると眠れなくなる、悪い癖だ。

 「これも全部・・あの男のせいよ」


 ”僕は・・・あなたの義弟、桐堂帝を憎む者だ”

 寺内譲と男は名乗った、彼は一体どう言うつもりであんな事を言ったんだろう。初めはただの戯言だと思った。帝君は桐堂財閥の跡取り息子、人から恨まれる事もあるのだろう。

 だが、その後の言葉は聞き捨てならなかった。


 「帝君・・随分遊んでいたみたいですね・・クラブの女の子、待ってますよ」
 「な・・・!?」

 どうしてそれを、と口走った後でしまったと口を噤むが後の祭りだった。寺内譲はニヤリと極悪な笑みを浮かべると、
 「王子なんて言われてますけど陰では色々やってるみたいですねぇ・・」

 どうして、どうして、と焦るばかりだった。帝君は誰かにバレるようなヘマはしていないと言っていたはずなのに。
 沈黙するあたしに寺内譲はますます勢いをつけたようで、そっと耳元に囁いてくる。

 「こんな事学園で知られたらどうなるか・・・分かりますよね?」
 「そ、そんな事あたしには関係ないですから!」

 そうだ、いくら義弟とは言えあたしには関係のない事。帝君がどうなったって・・・。

 「おやおや、そんな事を言っては彼が悲しみますねぇ・・・あんなにあなたを好いているのに」
 「―――!!」
 「どうして、と言う顔をしていますね。そんな事簡単ですよ・・彼を見ていれば分かる。あんなに健気な彼を見たのは初めてですよ」

 こいつだ、とこの瞬間に確信した。最近視線を感じていた、それはこの男だったのだ、と。

 「ど、うして帝君を・・・」
 「僕、彼が大嫌いなんですよ。あの綺麗な顔を一度歪めてみたいと思っていたんです・・それだけですよ」

 にこり、と笑う様子は帝君のそれに良く似ていた。嫌いだ憎んでいると言いながらも目の前の男の様子は帝君と酷似している。
 だが、帝君よりも余程凶悪に感じられるそれに、あたしの足は自然と後退していた。

 「怖がらなくてもいいですよ?ただ、あなたには少しして頂きたい事があるんです。それをして下されば彼について、何も言いません」
 「あたしには関係ないです!!」

 その場から、男から一刻も早く逃げ出そうと思ったのに、寺内はあたしの二の腕を掴んでそのまま引き寄せた。
 よろけて男の腕の中へと後ろから飛び込んでしまい思わずドキッとしながらも、すぐに抜け出そうと暴れる。

 「この変態!放しなさいよ!」
 「・・・明日の放課後、第一体育館裏」
 「え・・・!?」

 それだけ言うと寺内はあたしを放し、そのまま人込みの中へと消えてしまった。









 「・・行かないわ」

 闇夜の包み込む部屋でシーツの擦れる音と共に決意に満ちた自らの声が聞こえた。
 行かない、行かないと何度も呟くが心中では全く別の事を考えていた。

 帝君の事がバレたらどうなるのか。桐堂財閥の跡取りとして大丈夫なのか。彼の築き上げてきたものは・・・。
 関係ない、と寺内には言ったが本心はおそらく彼も見抜いていただろう。

 確かに色々困らされる事の多い彼だけど、あたしは知ってしまったから、仮面の下の顔は15歳の傷つきやすい臆病な少年である事を。あたしを好きだと言う時、いつも漆黒の瞳が少し揺らぐ事を。

 あたしはもう以前のように帝君を嫌ってはいないし、かと言って義弟として慕っているわけでもない。

 でもやっぱり・・・

 「ほっとけない・・」

 彼には色々借りがある。それを返すいい機会だ。

 「だから・・・」

 だから、あたしが明日行くのも帝君のためなんかじゃないんだから。  











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