授業が終わり、ようやく気まずい空気から抜け出されるとホッとしたのも束の間、ガラリと扉が開く音と同時に黄色い悲鳴が教室中に響き渡った。

 何事かと慌てて音のした方を見て、あたしは本能的に顔を背けた・・・が、

 「あ、義姉さん!」

 一見爽やかな笑顔を浮かべた学園の王子様がヒラヒラと手を振って立っていた。

 だけど、顔を背けたままのあたしに彼は少し苛立ったのか一層声を大きくしてわざと皆に聞こえるように言った。

 「一緒に帰りましょうよ!僕、待ってたんですよ」

 嫌がらせだ、これは。まさか教室にまで来るなんて思わなかった。こんな事ならさっさと一人で帰ってしまえば良かった。

 人が後悔に打ちひしがれているのに帝君ときたら至極満足そうにニコニコ笑いながら2年の教室であるのに堂々と足を踏み入れてきた。
 そしてあたしの手から荷物を奪うともう片方の手であたしの手を取った。

 「ちょっ・・・!!」
 「ほら、早くして下さい。お話があるんですよ」

 ぐいぐいと引っ張られて、つんのめりそうになりながらも人垣を掻い潜り、教室から何とか抜け出した。その時に見た女の子達の形相には息が止まりそうになったけれど。あぁ、明日も今日の二の舞だわ。






 一気に憂鬱になりながらも彼に引っ張られながら校舎を出ると、すぐに車が待ち構えていた。

 「ほら、早く乗って下さい」

 無理に車に押し込められ、ドアが閉められるとすぐに動き出した。一体何をそんなに急いでいるのか。

 「これからあなたのドレスを買いに行くんですよ」
 「・・・ドレス・・」
 「そうです。明日、パーティーがあるので。一枚も持っていないでしょう?」
 「・・持ってないけど・・・パーティーって・・?聞いてないんだけど」
 「当たり前です。だって言ってませんもん」
 「・・・あっそう。で、パーティーって何の?」

 案外冷静なあたしの様子が不足だったのか帝君は可愛らしく頬を膨らませてからかいの眼差しで覗き込んできた。

 「あれ?怒らないんですか?」
 「もう慣れたわ。あんたにいちいち付き合ってたらこっちの身が持たないもの」
 「つまらないですね・・まぁいいです。パーティーは代理で行くんですよ」
 「代理?」
 「父が出席出来ないので僕はその代理と言うわけです。でも一人では寂しいのであなたも、と思いまして」
 「一人で行って」

 突っぱねても相変わらず帝君はニコニコとあたしの言葉なんて無視してどんどんと話を進めてくる。

 「会社の取引相手でしてね。僕も昔から何度かお会いした事があるんですが、ぜひあなたにもお目にかかりたいとの事でして」
 「ふーん・・・ねぇ、いつまでその口調なの?本当に気持ち悪い」
 「またですか?僕、傷つきますよ・・・明日のパーティーにボロを出さないための練習です」
 「・・ボロなんて出すわけないくせに」


 小さく零した言葉が聞こえたのか、少年は仮面を外して素の笑顔――酷く妖艶で自信に満ち溢れているそれ、を浮かべた。









 「いらっしゃいませ、桐堂様」

 品の良さそうな店員さん達から一斉に頭を下げられて、あたしは分かりやすく挙動不審になった。だって、こんな高級そうなブランド服の店、入った事もないんだもの。

 思わず後ずさるあたしの腕を掴んで、無情にも帝君は店員さんたちの中にあたしを引きずり出した。

 「パーティーに出るのでそれ用のドレスを何着かお願いします」
 「畏まりました」

 さすがは優秀な店員さん。すかさずあたしの全身を見回して素早くドレスを選んでいく。


 これはどうですか、と何着も進められたけどそのどれも胸元が多く開いていたり背中を出していたりで、とてもあたしが着れる物ではなかった。

 「あの、もうちょっと露出の少ないものを・・」
 「まぁスタイルもよろしいのに勿体ないですわ」

 どんなに褒められても店員さんの営業トークにしか聞こえない。スタイルがいいか悪いかなんて自分が一番良く分かっている。

 何だか酷く惨めな思いになりながら諦めて差し出されたドレスに着替えようとした時、

 「これなんていいんじゃないですか」

 帝君が差し出したドレスは淡いブルーのすべらかな布地に露出も少ないが、所々の装飾が凝っていてとても可愛らしいものだった。

 思わず見惚れてしまったあたしの手にドレスを持たせようと近付いた瞬間、彼は囁いた。

 「きっと似合う」

 驚いて仰ぎ見た時の彼の顔は暖かみを帯びた15歳の少年のそれで―――

 「・・・うん」

 知らず知らずのうちに笑いながら、あたしは試着する前からこれにしようと決めていた。











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