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 寺内が一歩近付いてくるたびに体に震えが走った。彼の目が本気だと言ってい。本気で帝君を・・・。

 「近付かないで!」

 必死に睨んですごんでみても無駄だと分かっている。だけどこのまま見過ごすわけにはいかない。もうあたしだけなんだから、彼を守る事が出来るのは。
 だけど寺内は獲物を追い込む肉食動物さながら、ゆっくりとあたし達を追い詰める。

 笑いながら手を伸ばしてくるのを認めると反射的に目を瞑ってしまった。
 それは諦めと同じだった。もう駄目だと思った、誰も助けてはくれないんだと。だけど・・・

 「ねぇ・・・何、してるの・・?」

 片言で独特な日本語は拙く、いつもは微笑ましく思えるのだがこの時だけはとても頼もしく耳に響いた。

 「御影君・・・」

 いつも神出鬼没だとは思っていたけれど、ここまでとは思わなかった。だけど今は驚きよりも嬉しさの方が遥かに勝る。
 眠そうなぼんやりとした顔もヒーローのそれに見えなくもない。

 寺内達も突然の御影君の登場に動揺を隠しきれないが、相手が一人だと分かると余裕が戻ってきたようだった。

 「おや、君は2年の御影流架君ですね。こんなところにお一人でどうしたんですか?」
 「・・・桐堂・・様子、変だった・・だから・・・つけた」
 「は!?」

 素っ頓狂な声は勿論あたしから。今、つけたって言った?確かに御影君とは体育館裏に行く前に会ったけど・・一体いつからつけていたの?

 「・・桐堂・・気絶する・・・おかしい・・だから車・・追った」

 あたしもさすがに慣れてきたのか何が言いたいのか分かってしまう。つまり、彼はあたしが気絶して運ばれていくのを見ておかしく思って車を追ってここまで来たみたいだ。
 話は分かるのだが、どう考えてもおかしな点が一つある。

 「車は・・・?まさか、歩いて来たとか言うんじゃ・・」
 「・・・走った」

 あぁやっぱり。妙に顔が赤く息が荒いなぁと思ったら・・・。相変わらずとんでもない、彼は。
 ヒーローの登場かと期待したけど違ったみたいだ。むしろ被害者が増えてしまう。

 「御影君!逃げて!このままじゃあなたまで撒き沿いを・・・!」
 「・・大丈夫・・」

 ぼんやりと頷いた刹那、けたたましいサイレンの音が聞こえてきた。

 パトカーだと気付いた寺内達の行動は早かった。すぐさま出口とは反対の方向へ走って行く。え、と思った時には彼らの姿は忽然と消えていた。どうやら抜け道があったようだ。
 逃げられた、と思ったが今は帝君の方が心配だ。早く病院に連れて行かなければ・・・!

 「・・大丈夫・・命に別状は、ない」

 小さな声であったがあたしを安心させるには十分すぎるものだった。御影君がゆっくりと帝君の容態を見ると手で触れたりして、確信を持って言った言葉だから。
 そう言えば彼の実家は大病院だった。家柄上、多少は医学の心得もあるんだろうか。

 「・・大丈夫」
 「うん・・ありがとう」

 もう一度力強く言われてようやく安堵の息を吐いた。









 「色々ありがとう・・」

 帝君の治療中、ずっとあたしの傍にいてくれた御影君に改めて御礼を言う。彼がいなかったら今頃どうなっていたか・・・。
 だけどそんな感謝の気持ちも御影君は悲しそうに首を横に振る。

 「・・警察は・・最初から彼が、呼んでた・・みたい・・」

 一瞬意味が分からなかったが、よくよく考えてみると確かにその通りだった。駆けつけた警察は皆帝君を桐堂財閥御曹司だと認識していたように思う。
 彼の事だからあらかじめ何かあってもいいように色々手回ししておいたのだろう。

 帝君とは本来そうなのだ。用意周到でいつも計算して動いている・・・だからこそ彼が無謀にも一人で来た事に驚いたのだ。

 「本当に・・・馬鹿なんだから・・・」

 頭、凄く良いくせにあんな馬鹿な事をして・・本当にどうしようもない。だけど、それがどうしようもなく、また嬉しくもあった。        











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