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 案の定、プライドの高そうな寺内は怒りくるって詰め寄ってきた。

 「僕のどこがあいつに劣ると言うんだ!?」

 胸倉を掴まれて息が詰まる。先程までの紳士ぶりとは一変した荒々しさだ。おそらくこちらが本性なんだろう。

 「全てよ・・・!!」

 息苦しさに喘ぎながらそれだけ言うと、男は怒りに顔を真っ赤にしながらあたしを突き飛ばした。
 両手両足を縛られているせいで受身を取れずに勢いよく地面に叩きつけられ、背中と頭に激痛が走った。

 生理的に滲み出る涙を見てようやく寺内は満足そうに笑った。

 「さすがは下賤の出だけあって、口が悪いですね・・大人しくしておいた方が身のためですよ」

 下賤と言う言葉にかなりカチンと来たが、今は痛みに耐える事しか出来なかった。仮にも女の子になんて事をするんだこの男は。

 上手く起き上がる事も出来ずに床に転がったままでいるのが酷く惨めに感じながら、ようやくあたしは周りの状況を把握した。
 どこかの倉庫のようだ。ダンボールがそこら中に積み上げられているのが見える。拉致の定番だな、とぼんやりと思いながら一つしかない出口に目をやった時だった。

 「おや、義姉さん・・・随分と面白い格好をしていますね」
 「み、みみ・・帝君!?」

 あたしの声に男達は一斉にそちらを見た。寺内は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにニヤリと悪役そのままに口元を歪める。

 「よく来てくれました・・・一人ですか?」
 「もちろん一人ですよ・・初めてタクシーと言うものに乗りました。いい体験をさせて頂きありがとうございます」

 ニコニコと二人とも表面上は穏やかに会話するが、内心では腹の探りあいに勤しんでいた。
 あたしはと言うと、帝君が来たことに驚きを感じていた。沢山彼の思いを踏み躙って傷付けてきたはずなのに、どうして彼はまだあたしを助けに来てくれるんだろう。

 「どうして・・どうして来たのよ・・馬鹿じゃないの」
 「酷い言い草ですねぇ・・・・言っただろ、俺は茉莉が好きだって」
 「だって・・・」

 痛みと嬉しさと情けなさとで頭がぐちゃぐちゃだ。今流している涙の意味すらよく分からない。
 突然涙を見せたあたしに帝君は少し動揺したのか顔を歪めると、寺内を射る様な瞳で睨んだ。

 「お前の目的は俺だろう。茉莉は関係ない、放せ」
 「おや、もう猫かぶりはしないんですね・・・そんなに彼女が大事ですか?どこがいいんだか、あんな・・」
 「黙れ」

 背筋が凍りつくような感覚を覚える低い、地を這うような声をあたしは初めて聞いた。寺内も怯んで一歩後ずさったが仲間がいる事に力を得たのか、

 「黙るのは君の方ですよ」

 不敵に笑むと、目配せして帝君を取り囲む。いかにも屈強そうな男達の中央にいる帝君はどうしてもひ弱そうに見える。華奢で育ちのいい少年が喧嘩なんて出来るとも思えない。

 だが、少年はあたしの不安など全く感知していないように少しだけ億劫そうに制服の首元を緩めた。

 「・・知ってるか?桐堂財閥の者達は幼くして学ぶものがある事を」
 「・・・?」

 突然何を言い出すのか、と意味を掴みかねるのはあたしだけではなかった。寺内も他の仲間達も怪訝そうに眉を寄せる。
 彼らの様子を見て、帝君は大仰そうに溜息を吐いて寺内を横目で見る。

 「俺をはめようって言うのにそんな事も調べてないなんて・・・呆れたな」
 「・・こんな状況なのに余裕ですねぇ・・・君のその余裕・・・大嫌いなんだよ!」

 寺内の笑顔が消えたと同時に取り囲んでいた男達が一斉に華奢な少年へと襲い掛かる。
 思わず目を瞑ってしまったあたしには状況とは裏腹に焦った様子の欠片もない少年の声だけが密やかに聞こえてきた。

 「帝王学に礼儀作法、様々な外国語・・そして・・・」
 「ぐああっ!」

 情けない悲鳴は勿論帝君のものではない。驚いて目を開けた先にいたのは倒れた男と不敵に微笑んだ少年であった。

 「武術・・・しかも桐堂家独自のものだ・・いるんだよな、昔から。逆恨みや誘拐を目的とする輩が」

 名家の者ならば武術もある程度は習う場合もあるのだが、桐堂家のそれはレベルが違う。

 「・・茉莉を巻き込んだ事、後悔させてやるよ」

 ・・帝君、それじゃぁどっちが悪役か分からないよ。   











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