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いつもよりほんの少しだけ早く起きた今朝、最近グッと寒くなってきたからなかなか布団から出る事が出来ない。
寝返りをうって再び目を閉じる至福。メイドさん達が起しに来るまでもう少しだけまどろんでいようと決めた。
それから5分ほどたっただろうか。ドアが開かれる音がして、静かな足音が近付いて来るのが分かったが、あたしは目を開こうとはしなかった。
きっと寝ぼけていたんだと思う。メイドさんなら必ずノックして「おはようございます。起きていらっしゃいますか」って言ってくれるのに、今日に限ってそれがないのを何の疑問にも思わなかったんだから。
そっと揺さぶられても、どうしてもこの幸せから抜け出したくなくて、
「う〜ん・・もうちょっとぉ・・」
ママと二人暮らしをしている時のような感覚で言うと、その人は揺さぶる手を止めてボソリと言った。
「・・お姫様はやはり王子様の口付けででしか目を覚まさないのでしょうか」
「・・・・・・んん?」
ようやく目を開ける。今、何だか凄く背筋が寒くなったのは気のせいだろうか。ドアに背を向けていたので入って来た人は分からない。
「仕方ないですねぇ・・キスしちゃいますよ?いいですよね?」
「いいわけないだろ!!」
凄い勢いであたしは跳ね上がると、そのまま振り返ってそこに立っていた人物を睨み付けた。
「おや?起きていたんですか?そのまま寝ていて下さればいいのに」
「寝てたらあんたにサードキス奪われるでしょうが!」
「そのつもりですよ?・・今もね」
帝君がベッドに手をつくと、その重みで少し軋んだ音が出た。グッと寄せられた顔は朝のせいか気だるさも相まって年下とは思えない色っぽさがある。
そんな顔で唇をなぞられると頭は完全に麻痺。これが奴の手口なんだと分かっていてもやっぱり動揺はしてしまうもので。
「お嬢様?起きていらっしゃいますか?」
メイドさんの控えめな声がなければ絶対にサードキスまでもあいつに奪われていただろう。
その声にハッとして慌てて眼前に迫っていた帝君の顔を引き剥がして上ずった声で答えると事務的な動作でメイドさんが入って来た。
「おはようございます・・・?帝様はどうしてお嬢様のお部屋に・・・?」
「えっ!?えぇっと〜あの〜」
まさか朝這いされました、なんて言えるはずがないが麻痺した頭では気のきいた言い訳なんて出てくるはずもなく、ただうろたえる事しか出来なかったあたしとは反対に帝君は得意の仮面をさっと付けた。
「義姉さんのうなされている声が聞こえたので、失礼とは思いましたが部屋に入って起したんですよ。随分悪い夢だったんでしょう・・・ねぇ?義姉さん?」
そうだろ、うんって言えよ、とにこやかな笑顔の脅迫に逆らえる人がいたら連れて来て欲しい。
「そ、そうなのよ!ほんっと最悪な夢で起してもらって良かったわ!!」
声が上ずっていた事は仕方がないと思うのに彼はまだこっちをにっこりと気味が悪いくらいにこやかに見ていた。
「あ、の・・着替えたいんですけど・・・?」
いくらなんでも女の子の着替えを覗く事はしないだろう。いや、悪魔バージョンならやりかねないけども。
だけど今はメイドさんもいるので天使バージョンの彼。そのまま素直に部屋から出て行ってくれるはずだった。
だが、ドアのぶに手を掛けた瞬間、何を血迷ったのか突然訳の分からない事を言い出した。
「そういえば、約束、覚えてますよね?」
「は?約束?何それ」
冷たく言い放つとあからさまに傷ついた顔をする義弟に演技だと分かっていてもほだされそうになってしまう。
そんな捨てられた子犬のような目で見るのは卑怯だ!自分の容姿をよく理解しているからこそ出来る技だろう。
「忘れてしまったんですか?これから一緒に学校に行こうって約束を・・・」
していない。そんな約束、絶対にしていない。
「・・・やっぱりまだ義姉さんは僕の事を義弟だって思ってくれないんですね・・」
お前だってあたしの事義姉なんて思ってないだろうが!!って叫べたらどんなに楽か。
メイドさんの非難の眼差しをヒシヒシと受けながら、あたしはようやく白旗を上げた。もう一生こいつに勝てないんじゃないか、と言う不安を覚えながら。
その後、あたしと帝君は佐々木さんの運転で一緒に登校する事になった。こんな事をしていたらまた学園で敵が増える事はよく分かっていたけれど、あたしは軽く考えていた。
ちょっと悪口を言われるだけだと。
だから、まさか桐堂財閥の大きな門を通り抜けるあたし達の乗る車を隠れて窺っている人がいるなんて気付かなかった。
その人の目が底知れぬ殺意で満ちていたなんて・・・思いもしなかったんだ。
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