神様、あたしが何か罪深い事でもしましたか?





 桐堂の屋敷を見て、豪邸は見慣れたと思っていたが、それは大きな間違いだったと星城学園を見た瞬間に確信した。

 あたしの貧相な語彙を駆使して説明していこうと思う。

 第一印象は白くて広くて大きくて、西洋のお城みたいだと思った。どうやら星城学園のシンボルカラーは純白のようで、それは制服からも伺える。
 白の校舎なんて、くすんでしまえばひどいものだが、星城学園のそれは塗り立てのようにどこも汚れた所は見られない。

 帝君によれば毎日業者の人が塗りなおして、手入れを怠らないらしい。
 そして造りがヨーロッパ風味なのは、建てられたのが明治頃で桐堂財閥はいち早く西洋の文化を取り入れた。そして世の文明開化の影響もあり、このようになったらしい。

 教室は当然のように全て冷暖房完備で、音楽室や体育館は1つだけでなく、5つくらいある。
 あたしが一番驚いたのは、乗馬のためなのか馬が何十頭も飼育されていた事だ。一頭持つだけですごく大変と聞いた事があるのに、何十頭なんて、考えただけでゾッとする。

 他にも温水プールや温泉やもうとにかく凄くて。多分あたしがまだ見ていない所にもっと凄いものもあるだろう。


 とりあえず分かった事は星城学園は学校じゃない。勉強の出来る高級ホテルだ、と言う事。





 その高級ホテル兼学校に到着した時、待っていたのは女子生徒の黄色い声であった。
 まさかあたしの歓迎では、と一瞬でも思ってしまった自分が恥ずかしい。その黄色い声は当然のように隣の少年に向くものであるのに。

 性格は最悪な帝君だけど、学校では天使を演じているようで、「おはようございます」なんて爽やかに笑って挨拶した時は笑いすぎて涙が出た。

 だけど、現実を知らない哀れなお嬢様達は皆、「帝様〜」なんて言いながらうっとりとしていた。あれは確実に目がハートになってたね。

 忘れていたけれど、この学園は桐堂財閥が自分の子息のためだけに建てた物だ。創立者の子孫で名義上は学園長の息子の帝君は生徒達だけではなく教師も一目置いているようだ。彼に話しかける人は皆敬語だ。


 そんな王子様と一緒に見た事もない女子生徒がいたら、そりゃぁ怒るのも当然で。誰よあんた、なわけで。

 「桐堂様?そちらはどなたですの?」

 可愛らしい中にも気品と威厳の漂った少し気の強そうな女の子がそう言ってきた時は心臓が止まるかと思ったわ。
 ニコニコと笑顔をしていたが、目が笑っていなかった。お嬢様って大人しいものじゃないのね、と少し的外れな事を思ったほど。

 あたしだったら笑顔の圧力に負けそうなところを帝君は流石と言うか、こちらも笑顔で冷静に対応した。

 「僕の義姉ですよ。茉莉さんって言うんです」
 「お姉様?桐堂様にご兄弟なんていらしたかしら?」

 疑問系で聞いていたが、あれは確信を持っていたね。帝君の事なら何でも分かってるって顔してたもの。

 「はい、いましたよ。ねぇ義姉さん?」
 「そうね、弟よ」

 反射的にカクカクと頷いた。お嬢様も怖いけれど、この悪魔はもっと恐ろしい。

 帝君にそう言われては例え疑問に思っていてもどうにも出来ないようで、お嬢様はそうですか、と言って引き下がった。目はちっとも納得していなかったけれども。






 今なら帝君がなぜあたしと一緒に登校しようと思ったのかよく分かる。


 あたしはげんなりと肩を落としてそっと伏せていた顔を上げる。
 すると、そこにはやはりまだあのお嬢様がいるわけで。しかもお供付きで。

 そしてここはお約束な事に校舎裏で、人影がなくて・・・つまり女の苛めには絶好な所ってわけ。

 「ちょっと、あなたさっきから何かブツブツと・・・私の話、聞いていますの?」
 「ああ、はい、まぁ・・・」
 「じゃぁ理解して頂けましたかしら?桐堂様に馴れ馴れしくしないで頂きたいのです」
 「別に馴れ馴れしくしてたわけでは・・・」

 これを言うのはこれで3回目だ。もういい加減にうんざりしてきた。

 しかし、気付かれないようについた溜息と舌打ちがどうやらお供の方々のお耳に入ったようで。

 「あなた、いい加減にしなさいよね!聞いた話では桐堂様のお父様の再婚相手の連れ子で、至って庶民の暮らしをしていたらしいわね」
 「庶民って・・・」
 「黙りなさいよ!そんな分際で桐堂様に馴れ馴れしく・・・恥ずかしくないのかしら!?」
 「あなたのお母様もどうやって取り入ったのかしらねぇ。汚らわしい庶民のやる事は分からないわ」

 ・・・やばい。切れそうだわ。

 今まで黙ってきたけれど、ママの事まで侮辱されたら堪らない。

 「何とかいいなさいよ!!」

 言ってやるわよ。


 そう意気込んで空気を吸い込んだ瞬間、その場に全くもって相応しくない、のんびりとした声がひそやかに聞こえてきた。

 「・・・ねぇ・・・うるさいんだけど・・・」

 その声に何となく聞き覚えがあったあたしだったが、それもそのはず。

 「あなたは・・・」


 その場に眠そうに目を擦りながら立っていたのは、誘拐されそうになったあたしを助けてくれた、あの少年であった。











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