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夢中で走って走って走り続けて、あたしはやっと足を止めた。
今までだったらもっと走れたのだが、最近運動不足のせいかひどく疲れた。
乱れる呼吸を整えながら周りを見ると見た事もない景色が目に映った。
寂れた商店街。ほとんどの店が夕方前なのに店を閉じている。人通りも少なく、何だか違う世界に来てしまったような変な違和感があった。
がむしゃらに走って来てしまったから帰り方もよく分からない。一瞬戻ろうかとも思ったが、どうしてもそんな気になれなくて、そのまま商店街の中へと足を進めた。
見れば見るほど不気味な商店街だ。壁のほとんどはスプレーで落書きがされている。
どうしてこんなに荒れてしまったのか。
そんな疑問が頭を過ぎったがすぐに分かった。
足を止めて後ろを仰ぎ見ると、大きなビルの頭が少し見える。最近出来た大型デパートだ。きっと客が全部あちらに行ってしまったのだろう。
顔を再び商店街に向けると、先程は感じなかった物悲しさが感じられ少し感傷に浸った。
だからあたしは気付かなかったんだ。誰かがあたしを見ている事を。
そして後ろから腕が伸びている事を――
「・・・んっ・・・!??」
突然羽交い絞めにされて口を塞がれた。
一体何なの!?
必死に手足を動かしたが、やはりそこはか弱い乙女。ズルズルと引きずられてそのまま近くの路地裏に連れて行かれる。
パニックになる頭を必死に落ち着かせながら様子を伺うと、相手が一人ではない事、そして路地裏の先にある車に気付く。
どうやらそのまま連れ去ろうと言う魂胆のようだ。
だがそう簡単に攫われるあたしではない。勢いよく肘を後ろの男の腹へと叩き込んだ。テレビで見た痴漢撃退法の一つだ。
効果は絶大だったようで男は情けない声で呻きながら崩れ落ちた。
今がチャンスとばかりに逃げ出そうとしたが、すぐに捕まってしまった。やはり人数がいてはどうする事も出来ない。
今度は腕を縛られて口をガムテープで止められた。こうなってはもう逃げる術がない。
諦めが心を支配すると、不思議と冷静になり、今までは聞こえてこなかった男達の声が耳に入ってきた。
「いってぇ〜・・・本当にこんな奴が桐堂財閥の令嬢なのかよ」
「確かな情報だ。再婚相手の連れ子らしいがな」
「そんな奴誘拐しても金なんか払うか〜?」
「嫌でも払うだろ。払わずに体面を傷つけたりしないはずだ」
こ・・・こいつら、あたしを桐堂家の人間だと知ってこんな事したんだ・・・!!
驚きに目を見開いたがよく考えたら当然の事だ。でなければこんな小娘誘拐する理由などない。
あぁどうしよう。
今更ながら自分の愚かさに涙が出てくる。あれほど送り迎えを強要されたのはこのためだったのだ。
誘拐の場合、犯人は逮捕される可能性が高いが被害者も殺される可能性が高いと聞いた事がある。
あたしの人生はこんなところで終わるんだろうか。
涙が一滴頬を伝う。
嫌だ。あたしはまだ恋もした事がないのに。運命の人にだってまだ巡りあっていない。
助けてよ・・・誰か・・・あたしを助けて・・・!!!
心の中で叫んだ瞬間、それに答えるように背後から声が掛かった。
「・・・何してるの?」
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