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 「うっ・・ぐすっ・・・ひっく・・くすん・・」

 目の前で永遠に泣き続けるママを尻目に部屋にある豪勢な時計に目をやると、ママが泣き始めてからすでに20分が経っている事に気付いてげんなりとした。
 ママがこんなになっているのはあたしのせいだし、悪いと思っているからこの20分大人しくしていたけど、もう限界だ。鬱陶しい泣き声にもうんざりしてきた。

 「ねぇママ?あたしは無事だったんだからもう泣き止んで・・・」
 「無事だった、ですって!?偶然男の子が来てくれなかったら茉莉ちゃんは今頃・・・うぅ・・・」

 その今頃の事を想像したらしく、ママは再び目に涙を溜めて小さい子供みたいに泣きじゃくってしまった。

 そんな様子に呆れ返ってしまうが、あたしはきっと自分で思っているよりもこの状況にうんざりしているわけではないんだと思う。
 こんな所を見ちゃうといつも自分勝手で気まぐれなママにもあたしを大切に思ってる所があるんだとちょっと感動してしまう。

 しかも最近は明さんにべったりでちっともあたしの事なんて考えてくれてなかったから、余計にそう思ってしまうんだろう。

 何だかんだ言っても、きっとあたしはママが好きなんだ。


 ゆっくりとママに近付いて宥めるように背中を擦ってやる。

 「今度から十分気をつけるから・・・泣かないでよ・・・ね?」

 その声に促されるように顔を覆っていた手を外してこちらを見上げてくる。
 その潤んだ上目遣いの瞳は我が母ながら妙に絵になって、怯んだあたしは背中を擦っていた手を離した。


 ぎゅっ。


 「!?」

 離した手を突然強く握られてぎょっとして握っている本人を見て、しまったと思った。

 潤んだ上目遣いは先程と同じであるが、今は明らかに他意を感じる。ママがこんな目をする時は何かを企んでいる時だ。

 「ねぇ、茉莉ちゃぁん?」

 来た!!甘ったるいおねだり用の声には決して逆らえない強い圧力が混じっているのだ。

 「な、な・・・なぁに?」

 こちらも負けじと笑顔を作るが口元が引きつっている事は見なくても分かっていた。

 「あのね、茉莉ちゃんがどれだけ気をつけても誘拐はまたあると思うの。明さんなんて子供の時から何十回とそんな目にあったって言うし・・・」

 何十回って・・・恐るべし桐堂財閥!お金持ちも楽じゃないわね。

 「だから、ママ心配で・・・親として子供の身を案じるのは当然でしょぉ?」

 まぁ当然でしょうけど、ママから親とか言われるとゾッとするのは何で?

 「これは茉莉ちゃんのためでもあるんだけど・・・星城学園に転校しない?」

 ・・・はい?

 ママの言った事が一瞬理解出来なくて呆けてしまった。

 「星城学園は警備は万全だし、茉莉ちゃんだって人の目を気にせずに送り迎えして貰えるのよ」

 あたしが何も言わないのをいい事にここぞとばかりに畳み掛けてくる。ママがここまで真剣になるなんて珍しい。これはあたしの事を心配しているだけじゃないとピーンときた。

 「ママ?本当のところ、どうなのよ」
 「え?ど、どうって?」
 「あたしを星城学園に入れたい本当の理由だよ」

 形勢逆転。しどろもどろのママを見るとますます疑惑は募る。
 言葉に詰まったママはしばらく目を泳がせていたが、意を決したようにこちらを見た。

 「茉莉ちゃんが心配だからって言うのはもちろんなのよ?星城学園が安全って言うのは確かだしぃ・・・」

 何も言わずに続きを促すが、再び目を伏せて何かに悩むように眉を寄せてしまった。

 「・・・ママ?」

 只ならぬ様子にあたしまで心配になって来てしまった。これは思っている以上に深刻な事かもしれない。

 「あのね、ママね・・・」
 「うん?」

 今度こそしっかりと顔を上げたママの目には縋る様な思いつめたような光があった。

 「明さんと海外で暮らす事になるの。茉莉ちゃんとは離れて暮らす事になるかもしれないの」



 一瞬の間。



 「それって一体どう言う事!?」

 聞いてない、あたしは全くそんな事聞いてないけど!
 そうやって言えばきっとママは「だって言ってないもん」とか言うに決まってるから敢えて言わないけど、あたしはもうパニックになりそうだった。


 海外どうこうよりも、明さんとママがいなくなったらこの屋敷に帝君と二人きりになるじゃないか!!
 もちろんメイドさん達もいるんだけど、彼女達は帝君の味方だからあたしにとってはすっごく辛い事になる事は必至だ。

 くらり、と眩暈を起したあたしはその場にへたり込んでしまった。      











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