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「はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げて、帝君から離れようと体を仰け反らせる。
だけど、がっちりと腰に腕が巻き付かれていて、少し顔を遠ざける事しか出来なかった。
「と、突然何言ってるの?そう言う流れじゃなかったでしょ?」
「そういう流れだったって」
先ほどまでのしおらしさはどこへ行ったのか、帝君は悪戯っぽく目を細めると再びあたしの頬を撫でた。
「傷付いてるんだ。慰めてよ」
頬を撫でる手が徐々に下におりて、唇に軽く触れる――帝君と最後にキスしたのはいつだっただろう。
ふと前回のキスを思い出して、ますます心臓が早鐘を打つ。やばい、流されそうだ。
「・・・茉莉」
「あの、ちょっ・・・」
吐息がかかるくらいまで顔が近付き、帝君のドアップに視界がぼやける。
もう限界だと反射的に目を瞑ると、唇にひんやりとしたものが押し付けられる。
それが帝君の唇だってことは目を開けなくても分かった。これまでのバードキスとは違って、随分と長い。
上手く鼻で呼吸できずに、息苦しさが募っていく。もう離して、と彼の肩を押したけれど、びくともしなかった。
あたしが辛いのを分かっているはずなのに、帝君はなおも角度を変えながらキスを続ける――もう限界。
体が激しく酸素を欲しがって、反射的に口を開けると待ってましたとばかりに彼の舌がスルリと進入して来た。
「ん・・・んんっ!?」
口内を暴れまわる異物感に軽いパニックに陥って、渾身の力を振り絞って離れようともがくけど、いつの間にか後頭部を手で固定されていて、僅かに首を振る事しかかなわなかった。
こいつ、最初からこれが狙いだったんじゃないでしょうね・・・!!
先程までの帝君と今の帝君が同一人物だなんて詐欺にも程がある。いつもの演技であたしを騙してたんじゃないか、なんて勘繰ってしまう。
脳内で文句をぶつけていると、抵抗が弱まったのを良い事に、ますます帝君は調子に乗ってキスを深める。
何だか手まで妖しい動きをして来てる。・・・ふざけんな。
「!?・・・っ」
思いっきり彼の舌に噛み付いてやると、さすがにキスを止めて体も離す。
「ってー・・・殺す気かよ」
目尻に涙を溜めながら、口を押さえる帝君は本気で痛そうだった。だけど、これくらいの報いは当然だと思う。
「いきなり何すんのよ、この変態!」
純情可憐な乙女の唇を奪うだけでなく、舌まで入れて・・・!そんな技どこで覚えたんだ、とか色々気になったけどさすがにそこまで突っ込んだら話がこじれる事は知っていた。
「未来の夫に変態はないだろ。こんなんで赤面してたら、どうすんだよこれから先は」
「何が未来の夫よ!しかも先って何よもう!」
「そりゃベッドで」
「あー!!言わなくていい!!分かったから!!」
慌てて彼の言葉を遮る。だけど帝君は不満そうに唇を尖らせた。
「遅刻した償いを今夜させるって言っただろ?本当に分かってんのかよ」
「分かってたまるか」
確かにそんな事を言ってた気がするけど、まさか本気だったとは。今夜は部屋に鍵をかけて、バリケードをして寝ないと。
密かに決意を固めていると、帝君は大きく溜息を吐いてこちらを睨むようにして見てきた。
「・・・返事は?」
突然の話題展開についていけずに、首を傾げると彼はますます不快そうに眉根を寄せた。
「疑問は全部解決したろ?それともまだ何かあるわけ?」
そこでやっと、彼がプロポーズの返事を欲している事に気付いた。そう言えばまだ返事していなかったんだよね。
見つめた先、帝君の漆黒の瞳に小さな不安の色を見つけて、胸がつかえた。
未来の夫とか余裕ぶってるくせに、不安なんだ。その不安は他の誰でもない、あたしのせい。ふらふらしてるあたしのせいなんだ。
そう思った瞬間に湧き上がってくる激情――帝君から不安を取り除いてあげたい。いつもみたいに余裕の笑みを見せて欲しい。
どうしようもなくて。どうしようもなく愛しくて。気付いたら彼に抱き付いていた。
「急に何だよ!?」
自分から迫るする分にはいいくせに、あたしからすると照れて焦る彼が可愛くて、大好きで――愛してて。
「あのね・・・」
真っ赤になった耳元にそっと唇を寄せた。
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