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 ひっそりとした会議室であたし達4人は緊張の面持ちで対峙していた。これで全てが明らかになる・・・そしてあたしと帝君の今後も決まるかもしれない。

 「先程言った様に、二人が付き合っている事は最初から分かっていたんですよ」

 最初に口を開いたのは明さんだった。申し訳なさそうに、けれどはっきりと告げられる言葉に再び恥ずかしさがこみ上げてくる。

 「茉莉ちゃんに婚約の話を出したのも、二人がどのくらい本気か確かめるつもりだったんです」
 「あの時、本当の事を言ってくれるってママも明さんも期待してたのよぉ?」

 ママの無邪気な言葉が心に突き刺さる。あたし達はそんな二人の思惑なんて知らずに偽って、流歌君まで巻き込んだ――その結果があれだ。

 何も言えないでいると、ママが困った様に眉を下げて続けた。

 「だけど全然言ってくれないんだもん。ショックで明さんたら帝君にまで婚約の話を持ちかけちゃったりしてぇ」
 「えぇ!?」

 それは初耳だ。帝君にまでそんな話が言ってたなんて・・・!?
 咄嗟に帝君を見ると、彼は難しそうに口を結んであたしの無言の問いかけに答えてくれる気はなさそうだった。

 「その相手と言うのが美浜さんだったんですよ」

 代りに答えてくれた明さんの言葉にますますショックを受ける。帝君は美浜さんとの事はカモフラージュで、彼女も協力してくれてたと言っていたけど、本当は婚約者だったの?

 「違う。婚約の話が来ても、俺はすぐに好きな相手がいるから無理だと言った。さっき言っただろ。彼女は協力してくれただけだ。彼女にも内緒で付き合っている相手がいたからな」

 今度はちゃんと帝君が答えてくれた。漆黒の目が俺を信用してないのかよ、と言わんばかりに鋭く光る。
 婚約の振りをしたのは、マスコミをあたしから遠ざけようとしたんだよね。美浜さんの事は良く知らないけれど、そんな面倒そうな事に協力してくれるのか疑問に思ってたけど、彼女の方も事情があったんだ。

 ここまで来ても彼を信用しきれない自分に内心溜息を吐いていると、

 「・・・そうでしたね。ようやく話してくれるかと思ったんですが、帝は何を思ったかとんでもない提案をその時しましたね」

 明さんが懐かしそうに目を細めて息子を見た。

 「その相手と将来結婚を考えている、どうすれば認めてもらえるか・・・彼女と結ばれるためなら何でもする、でしたっけ」
 「凄い台詞よねぇ〜。愛されちゃって、茉莉ちゃん羨ましいわぁ〜。こっちが赤面しちゃうわよぉ」

 ニヤニヤと笑う二人に、珍しく帝君は狼狽して恥ずかしそうにこちらを見た。
 可愛い。可愛すぎる――先程芽生えてしまった感情が再び燃え上がる。そんなに思ってくれてる人を疑ってばかりで、自己嫌悪も増してしまったけれど、嬉しさの方がはるかに勝っていた。

 「そこまで言うなら、ととっておきの条件を出しました。ほとんど不可能に近いはずだったんですが、まさか本当にクリアしてしまうなんて、嬉しい驚きでしたよ」

 あたしとの付き合いを認めてもらうための条件と言うのが、あの会社の建て直しだったらしい。桐堂財閥が保有する会社で唯一黒字になっていないその会社を見事黒字にし、社長として社員から認められる事――たった16歳の少年にはあまりに酷なものだった。

 「それを見事やってのけたんだもの。愛の力ねぇ〜」

 どのくらいそれが凄い事かなんて、あたしには想像も出来ないけれど、彼の気持ちは十分過ぎるほど伝わった。
 だけど、まだ一つ疑問点が残っている。その条件――帝君は賭けと言っていた――をクリアしたからと言って、どうして時期当主の任命に繋がるんだろう。あんなに嫌がっていたのに。
 口に出して聞いてしまいたかったけれど、躊躇われた。帝君はずっとその事を隠していたんだから、あたしが容易に踏み込んじゃいけないんだと思う。

 なのに、あたしの深い考えを知ってか知らずか、明さんはサラリと言ってのけた。

 「実は帝を時期当主に任命する事を長い間悩んでいました。彼はなりたくないと思っていたし、問題行動についても良く知っていたからなおさら・・・」
 「え!?」
 「なっ・・・!?知って、たのか・・・?」

 思わず声を上げてしまった横で、帝君が勢い良く立ち上がった。椅子が後ろに派手に倒れてけたたましい音を立てる。

 だけど、明さんは特に気にする様子も見せずに帝君とそっくりなその目を僅かに細めてニヤリ、と言う風に笑って見せた。

 その顔を見て、やっぱりこの人は帝君の父親なんだと実感した。  











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