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 「えーと、その前に色々聞きたい事があるんだけど・・・」
 「焦らす気?いい身分だねぇ」
 「そう言う事じゃなくて!あまりに急で頭が混乱してるの!もう訳分かんないし意味分かんない・・・」

 プロポーズを聞いた瞬間は嬉しさですぐにでも頷こうと思っていたけれど、時間が経つに連れて頭が冷えて様々な疑問が浮かび上がって来た。それを全て押しのけて彼の胸に飛び込むのはちょっと無理だ。

 それが出来たらもっと物事がスムーズに進むかもしれないけど、あたしはこうなんだから仕方ない。

 頑ななあたしに帝君も折れたのか、近くにあった椅子に腰掛けた。促されて隣に座ると、彼がおもむろに口を開く。

 「その訳分かんない事と意味分かんない事は何?この際だからきっちり答えてやるよ」

 この際と言うのが一体どの際なのか分からないけど、この機会を逃すわけにはいかない。山ほどある疑問に全て答えてもらおう。

 「・・・美浜さんとの事、本当なの?」

 色々あった疑問の中で真っ先にこの事が浮かんで来た。やっぱり彼女との事を気にしてたんだと改めて気付かされる。
 帝君もまずそれを聞かれるとは思っていなかったのか、一瞬意外そうな顔をしたけれど、すぐにいつもの癖のある悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 「そんなに心配したわけ?嫉妬したんなら素直にそう言えよ」
 「違っ・・・そうよ。嫉妬したわよ。悪い?」

 いつもの癖で反論しようとしたけれど、思い直した。もう素直になろう。強がるのは、偽るのは止めよう。
 からかわれても別にいいや。これが本当の気持ちだもん。

 そう思ってしばらく黙って彼のからかいを待っていたんだけど、いつまで経っても帝君はうんともすんとも言わない。
 放置プレイかと思って怒りの眼差しを横に向けると何だか変。

 「・・・真っ赤だよ、帝君」

 からかうどころか、彼は耳まで真っ赤にして口を右手で覆っていた。思いがけないその様子にあたしまで熱が伝染したように頬が火照る。

 「やだ、何照れてるのよ。恥ずかしいじゃない」
 「お前がそんな事言うからだろ!」

 ますます顔を赤らめる帝君に調子が狂ってしまう。何なのよ、こんなに純情少年だっけ?いつも人の事遊んでからかってるくせに。

 「・・・いつも俺の方が嫉妬してたから」
 「へ?」
 「俺といるよりあいつといる方が楽しそうじゃないか」

 あいつ、と言うのが流歌君を指しているなんて明らかだった。確かに、最近では帝君より彼といる方が多かったし、安らぎみたいなものも感じていた。でも・・・

 「好き」
 「!?」

 あ、また赤くなった。やばい、面白いな。これは癖になりそう。もっとからかってみたいと思ったけれど、これ以上はさすがに可哀相だし、早く疑問の答えが欲しかったからこのくらいで止めにしよう。

 「冗談はこのくらいにして――」

 本題に戻ろう、と続くはずだった言葉はしかし、突然帝君に抱き寄せられて舌の上で溶けて消えた。
 椅子が音を立てて倒れて一瞬気がそれかかったけれど、耳元にかかる熱い息がそれを許さなかった。

 「あいつはただの幼馴染。本当に協力してくれただけだ」
 「な、んでそんな事したの?」
 「記者達の目を茉莉から逸らしたかった・・・もうテレビを見て妬くのはごめんだったしな」

 拗ねる様に言う彼も可愛いなんて思ってしまっているあたしの頭にはもう花が咲いているんだろう。ゆっくりと腕を回して意外としっかりしている体を抱き返す。

 「どうしてテレビであんな事言ったの?すごく驚いた」

 目を閉じて彼の胸板に耳を当てる――ドクドクといつもよりも速い鼓動に自然と頬が緩む。

 「ああすればもう茉莉に付き纏おうなんて奴いなくなるだろ。日本中の奴らにお前は俺のものだって知らしめたかったんだよ」
 「・・・恥ずかしいやつ」
 「何とでも言え。それにこうすれば認めざるをえないだろ?茉莉も二人も」
 「二人?」

 思わず顔を上げようと身を捩ったけれど、ますます強く抱きしめられて身動きが取れなかった。まるで敵からあたしを守るかのような行動に首を傾げる。

 「苦しいよ、どうしたの?」
 「来た」

 何が、と聞く前に会議室の扉が開かれた。こんなシーンを誰かに見られるなんてごめんだったけど、帝君は一向に離す気配は無い。
 何とか首だけ動かすと入って来た人物と目が合ってしまう。

 驚いたように同時に見開かれるあたしとその人の目。その人は見覚えがあるなんてもんじゃない・・・だけど今は最も会いたくない人だった。

 「ママ・・・」

 抱きしめられている苦しさからか精神的な罪悪感からか、飛び出した声は酷く掠れていた。  











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