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桐堂グループ日本本社――帝君はここで会見を行っているんだ。
地下鉄4駅目と言う情報だけで飛び出して来てしまい、電車に揺られながらしまったと思ったけれど、そんな心配は無用だった。
様々な会社のオフィスが並ぶ高層ビルの中で一際目立つビル。そしてそのビルの周りに集まる報道陣を見て、すぐに会見場は分かった。
急く気持ちが抑えられずに足早に人込みを掻き分けてビルの傍まで行ったけれど・・・
「関係者以外立ち入り禁止・・・?」
あたしを拒むように、ビルの前には看板が大きな立てられていた。
帝君の会見中はビル自体に立ち入りが禁止されているんだ。報道陣も限られた人しか入れてもらえずに、こうして外にまで溢れ返っている。
関係者か・・・あたしは一応関係者で入る権利はあるんだけど、目の前にいる警備員のおじさんの目はそうは言って無かった。
「あの・・・」
「駄目だ」
「・・・まだ何も言ってないのに」
開口一番に拒否されてしまった。顔パス、なんて無理な話だよね。あたしなんておじさんにはただのミーハーな女子高生に見えているんだろう。
ビルの外には報道陣だけでなく、若い女性も大勢いた。会見が終わって出てくる帝君を一目だけでも見たいらしい。きっとあたしも彼女達と同類と見なされているんだろうな。
超お金持ちで美形で頭も良い――まさに女の子が夢見る現代の王子様そのものだ。あたしが彼の事を何も知らないただの女子高生だったとしたら、この中に加わっていたかもしれない。
だけど、あたしはあの中には加わる事は絶対にない。だって帝君の本当の姿を知っていて、その本性ごと好きになったんだから。
「入れて下さい。あたしは関係者です」
彼への思いが勇気をくれたのか、強面のおじさん相手に今度は真っ直ぐに目を見て言う事が出来た。
おじさんは少し戸惑ったけれど、ただの戯言だと思ったんだろう、馬鹿にする様に鼻で笑うと、
「見え透いた嘘は止めなさい。そう言って入ろうとした子は数え切れないくらいいるんだ」
相変わらずの態度で一蹴する。
証明書も何も持ってないあたしを通すわけにはいかない事は分かっているんだけど、それでもあたしは行かなきゃいけないんだ。
「あたしは桐堂茉莉です。中にいる人に確認してみて下さい」
周りにいる報道陣を気にしつつ、小声で言ってみたが、おじさんはますます眉を潜めた。
「そう言った子は君で5人目なんだ」
「・・・・・・」
まさかあたしの偽者が多発していたなんて・・・。あの会見で帝君があんな事言ったからだ、きっと。
でも、これであたしは完全に不利になってしまった。いくら報道されたとは言え、帝君ほどあたしは有名人でもないし顔も知られていない。
あぁ・・・おじさんのあたしを見る目が完全に不審者を見るそれになってしまっている。正直に言ったのに、墓穴を掘ってしまった。
「あ、あたしは本当に桐堂茉莉なんです」
「はいはい。もういいから、早く帰りなさい」
「だから、あたしは・・・!」
「これ以上言うなら人を呼ぶよ」
「呼ぶなら呼びなさいよ!あたしは本当に桐堂茉莉なんだから!!」
カッとして、つい玄関ロビーに響き渡るくらいの大声で言ってしまった。
騒ぎに気付いた人達が何事かと周りに集まって来てしまった。その中にはあたしを取材しようとした報道陣もいて・・・。
ヤバイ、と思った瞬間にはもう手遅れだった。
「あら!?桐堂茉莉さんがいるわ!」
「本当だ!」
一人があたしに気付くと一斉に取り囲まれてしまう。おじさんは目を白黒させていた。
「君、本当に・・・?」
報道陣の騒ぎに漸く気付いてくれてももう遅い。既にあたしは身動きが取れない状態だった。
「会見を見てこちらにいらっしゃったのですか!?」
「結婚するとは本当なんですか!?」
「いつからお付き合いされているんですか!?」
「御影流架さんとは三角関係だったんですか!?」
マイクを付き付けられながら質問が飛び交う。これいじゃぁいつまで経っても中に入れない。
「どいて下さい!通して下さい!」
必死に人込みを掻き分けようとしても少しも前に進まない。帝君が待ってるのに、言わなきゃいけないのに、ここまで来てるのに。
「通して!!」
悔しさと不甲斐無さで目に涙が浮かんで来たその時だった。
あれほど騒がしく取り囲んでいた報道陣が何を思ったのか、マイクを下げるとゆっくりと離れて行ったのだ。
一体何が起こったのかさっぱり分からないあたしは、ただただ所在無げに辺りを見渡して、そして気付いた。
関係者以外立ち入り禁止のその先に、スーツ姿の細身の男。男と言うにはまだ高校生くらいの幼さを残した彼は、呆然としているあたしに向かって微笑んで見せた。
「茉莉」
あぁ、帝君だ。
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