屋敷に帰って来るなり制服から着替えてあたしはベッドにダイビングした。何だか一気に疲れてしまった。
 このまま眠ってしまえたら楽なんだろうけど、目を閉じても一向に眠気はやってこない。当然だ、さっき起きたばかりなんだから。

 しばらくゴロゴロとしていたが、5分もすると諦めて身を起こす。

 「・・・暇だ」

 学校を休んだ事は数えるほどしかないが、今日のように健康体で休むのは初めてだ。風邪であれば寝ていればいいのだが、そうもいかないので手持ち無沙汰になる。

 どうしようか考えていると、大きなプラズマテレビが目に入る。

 普通ならここでリモコンを手に取るところだけど、ここ数日はテレビを付けるのを避けていた。いつあたしと流架君のニュースが流れるかと思うと安心して見ていられないからだ。

 だけど、もうそろそろニュースでも取り上げないんじゃないかな。今日の取材だってすぐに流されるわけじゃないだろう。

 悩みつつも手はリモコンを引き寄せる。元々テレビは好きな方だし、最近見ていなかったから無性に恋しく感じる。

 ちらりと時計を見ると、まだ朝のニュースがやっている時間だけど・・・

 「付けちゃえ」

 親指に力を込めると真っ黒だったテレビ画面が光を取り戻す。いつもなら学校に行っている時間だから特に見たいものなんてない。
 何か面白そうなものはないかと何気なくチャンネルを変えていて、ギクリとした。

 「帝君・・・」

 画面に彼の姿が映っている。それ自体は珍しい事じゃないんだけど、映像の下に出ている字幕があたしを釘付けにした。

 「・・・桐堂明氏、一人息子を時期社長に任命か・・・?」

 呆然と声に出しても、まだ意味がよく分からなかった。いずれ帝君は財閥を継ぐ事になる。それは分かっているけれど、早過ぎる。だって、彼はまだ高校1年生でこの前16歳になったばかりで・・・。

 「どう言う、事?」

 必死に状況を把握しようとしながらニュースの声に耳を傾けると少しずつニュースの全容が見えてきた。
 帝君は最近財閥の仕事の一部を任されるようになったらしい。経営者のパーティにも顔を出すようになり、本格的に後継者として動き出したようだ。

 最近忙しそうに動き回って、ろくに屋敷にも帰って来なかったのはこのためだったわけか。
 だけど、どうして急にこんな事に?それに、どうしてあたしには話してくれないの?

 「・・・久しぶり、だよね」

 恋人のはずなのに画面に映る帝君の姿が懐かしく感じる。そのくらい彼とは顔を合わせていない。
 一緒の家に住んでいて、一緒の学校に通っているはずなのに彼が酷く遠く感じる。こんな事であたし達は付き合っていると言えるのだろうか。誰にも言えない仲なんだからあたし達がしっかりしないといけないのに最近は擦れ違いばかり。

 テレビを切ると、力無くベッドに横たわる。ますます気分が沈んでしまった。どうして帝君は突然・・・本当に次期社長に任命されるんだろうか。

 社長になる事は彼の目的だったはず。だけど――

 ”俺が社長になるのは、桐堂財閥を潰す為だ”

 いつだったか帝君が憎々しげに言った言葉が脳裏をよぎる。あれは一体どう言う事なんだろう。あの時は考えている余裕が無かったけれど、どうして帝君は財閥を潰そうとしているのか。

 今社長になるために動き出したと言う事は・・・彼は財閥を?

 「駄目だ」

 思考を一旦切断して目を閉じる。・・・いくら考えても分かるわけがない。帝君に直接聞かないと。

 今日帰って来たら話してみよう。何を考えているのか、これからどうするのか、そして・・・あたし達の関係を。











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