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「ところで、流架君」
改めて向き直ると彼になぜここにいるのかを聞こうと思った。裏門はほとんどの生徒が使用しないし今はもう授業が始まっている時間だったから。
だけど、流架君が口を開くより先に、
「見つけた!」
突然第三者の叫びにも似た声にあたしは飛び上がりそうなほど驚いた。
声のした方を見ると、カメラやマイク、照明を持った人達がこっちに向かって走って来るところだった。
テレビの取材だとすぐに分かった。ぐずぐずしている内に見つかってしまったみたい。
すぐに逃げなくちゃと思ったけれど、門の向こうにはまだ鞄が残っているし、何も把握出来てなさそうにぼんやりと佇む流架君を置いてはいけない。
少しまごついている間にテレビクルーはあたしと彼を取り囲んでしまった。
「桐堂茉莉さんと御影流架さんですね!?」
興奮ぎみに顔を赤らめて、女性リポーターはマイクを向けて来る。
不味い。不味すぎる。だけど、逃げようにも四方を塞がれてどうしようもない。
・・・これはあれね。ノーコメントで通すしかないわね。
「ノーコメ・・」
「そうだけど・・・あんた、誰」
あたしが言うより先に、流架君が言った。
「私達、Jニュースの者ですが、少し取材をさせて頂きたくて」
「・・・何?」
「ちょ、流架君!?」
腕を引いて止めようとするけど、その様子さえカメラは撮ろうとして、反射的に手を放す。一瞬だけ撮った映像や写真で好き勝手言われたらたまらない。
そうして口を噤んでしまうと、リポーターは標的を完全に流架君に絞ったらしく、マイクを向けて嬉々として口紅を引いた口元を持ち上げた。
「ではまず。お二人は同じ学園に通われていますよね?今のように良く会ったりするんですか?」
「・・・まぁ、ね」
「お二人は新年のパーティに出席されましたよね?」
「・・ん」
「そのパーティでご婚約を桐堂夫妻に窺ったと言う情報があるのですが」
「それは、ない」
きっぱりと否定する彼に内心安堵の息を吐く。ここできっぱりと否定しておく方が逆にいいかもしれない。
あたしが答えるとうっかりと変な事を口走ってしまいそうだけど、無口な流架君なら・・・取材にも慣れていそうだし。
そう考えてこのまま任せる事にした。
「では、ご婚約はされないのですか?」
「・・・うん」
「お二人は相思相愛で、茉莉さんはそのために求婚を断ったと聞きしましたが」
「・・・そうし、そうあい?」
聞きなれない単語に首を傾げる少年に、リポーターは彼が外国暮らしが長い事を思い出したのだろう。すぐに言い換えた。
「両思いと言う意味です。流架さんと茉莉さんはお互いに好き合っていらっしゃるのでは?」
両思い、と聞いて納得するように頷いた彼はしばらく考えた後でおもむろにあたしを見た。
「え・・何?」
困惑するあたしに流架君は微笑むと、顔を再びリポーターに向けた。
「・・両思い、は違う、けど・・・俺は、茉莉が好き」
「・・・・・・はぇ?」
随分と間抜けな声が出たと思う。だけど、それを自覚する前にリポーターの女性が黄色い声を上げた。
「まぁ!!それでは、流架さんは茉莉さんとご婚約したいと思っていらっしゃるんですね!?」
「・・・たぶん・・そう、なの、かな?」
「では茉莉さんの方はどうなんでしょうか!?流架さんのお気持ちに応えないのでしょうか!?」
流架君の言葉にますます興奮したリポーターがマイクをこっちに向けようとした瞬間、あたしは横にいた彼の手を掴んで駆け出した。
「え?」
「いいから、ちょっと来て!!」
驚く流架君を引っ張って必死に走る。
鞄とか授業とか色々気にかかる事はあったけど、今はこれ以上ここにいたらいけないと思った。
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