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「・・・いない、よね?」
こっそりと忍び足で裏門に回るとそこはひっそりと静まり返っていた。
元々生徒は正門や中門を使うので、裏門はほとんど忘れられている。あたしも存在は知ってはいたが、使うのは初めてだった。
登校時間は終わってしまっているため、小さな門は堅く閉ざされていて、入れそうにない。
だが、門は小さく何とか登れそうだ。婦女子にあるまじき行為だがこれは登るしかない。
「よし!」
最初に鞄を放り投げてから、冷えた手で鉄の棒を掴むと、片足を柵の間にかける。
運動神経は良い方なので、苦労なく上までよじ登ると、後は慎重に飛び降りるだけだった。
高さは2、3メートルくらいだろう。これなら大丈夫なはず―――
「・・・見えてる」
「!?」
突然、思いがけない声が聞こえ、ぎょっとして顔を後ろに向ける。
そこにはやっぱり神出鬼没な流架君が眠たそうに目をとろんとさせながら、あたしを振り仰いでいた。
「な、何でここに・・・」
「・・・見えてる、けど、いいの?」
「え?」
何が?と首を傾げるが、今のあたしと流架君の位置関係を考えて、はたと思う。
上にいるあたしと下にいる流架君。あたしの今の格好は当然制服で勿論スカートをはいている。しかもそれは膝上で―――
・・・中、見えてるんじゃない?
「ちょっ!」
スパッツをはいていたが、それでも恥ずかしさは変わらない。
慌ててスカートを押さえると、はずみで体が後ろに大きく傾く。そう言えばあたし、門の上にいたんだった。
「うっ、わわわわ」
こんなお約束な展開・・・何とか避けなければ!
スカートから手を離して重心を前に傾けようと両手を必死に振り回すが、それも空しく体は後方へとどんどん傾いていく。
駄目。落ちる。
そう思った瞬間、この高さなら落ちても大丈夫だけど、後頭部を打ったら危ないかな、とか落ちたらスカートめくれちゃうよ、とか様々な事が頭の中を走馬灯のように駆け巡る。
だけど、あたしの体は地面に叩きつけられる前に空中で止まった。いや、空中で止まるわけない。目を開けて見ると、下から流架君があたしの背中を支えていた。
門が低くて助かった。だけどまだ安心は出来ない。足だけを門の上に残したまま上半身を後ろに倒しているこの状態はかなり危うい。流架君の両腕にいつまでものしかかっているわけには・・・。
「・・・このまま、落ちて来て」
何とか体勢を立て直す事ばかり考えていた矢先の突然の提案にあたしは言葉を失う。
だって、落ちて来てって・・・どういう事?
「受け止めるから、落ちて。腕、疲れた」
「えぇ?でも・・・」
「早く。手、限界かも」
有無を言わさない口調と、緩められた腕にあたしは慌てて柵へと残っていた足を宙へと放り投げる。
ちゃんと受け止めてもらえるのか、と言う不安は不思議と無かった。
そしてそれほどの衝撃も無く流架君の腕の中に体がおさまるとこわばっていた体の力が抜ける。
「・・ありがとう」
「・・・ん」
頷きながら丁寧に足から降ろしてくれる。地面に両足をつけると、自然と安堵の溜息が漏れた。
その時のあたしは危機的状況から脱した事に安心し過ぎていて周りの状況が見えていなかった。まさか木の陰からカメラが光っていたなんて思いもしなかったのだ。
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