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「じゃぁママ達はパーティの準備をしなきゃだから、茉莉ちゃん達は休んでいいわよぉ」
そう言ってのん気に手を振るママと微笑する明さんを見送ると、広すぎる部屋の中にあたしと帝君の二人きりになった。
「・・・じゃぁあたしはちょっと寝ようかな」
何か言われる前に逃げてしまおうと思ったが、すぐにそれが出来ない事を悟る。自室に行きたくても彼が腕を掴んでいるために体が動かせない。
「・・・・・・ごめんなさい」
こうなればもう謝るしかない。完全にあたしが悪い事は分かってる。あたしだって例え嘘でも帝君に彼女を作って欲しくないし。
だけど、帝君は予想に反して少し溜息を吐いただけで項垂れるあたしの頭を優しく叩いた。
「帝君?」
驚いて顔を上げると諦めたように苦笑を浮かべる彼がいて、ドキリとする。
「僕も大人気ないですね。仕方ないと分かっているのに」
「え?」
「むしろあれで良かったんです。彼氏がいないと分かれば婚約話になる事は間違いないですから」
自らを納得させるように頷いて、ソファに身を沈める彼につられるようにあたしも隣に座る。
「あの、どうしたの?」
久しぶりに見た天使の仮面を付けた彼。急にどうしたんだろう?てっきり怒るとばかり思っていたのに。
「今ほど義弟の立場を恨んだ事はありませんよ。堂々とあなたは僕のものだと言えない事がこんなに辛いなんて」
耳元で囁かれて体を縮こまらせると、強く抱き締められる。
「もう少し待って下さい。あなたを彼女だと憚る事無く言える地位になるまで・・・もう少し・・・」
「うん。待つよ?待つから・・・だから、大丈夫だよ」
言いながら何が大丈夫なのか自分自身分からなかったが、取り合えず落ち込んでいるらしい帝君を元気付ける事だけ考えた。
あたしだけじゃなく、彼だって不安に思っているのは知ったから。滅多に弱さを見せてくれないプライドの高い彼。そのせいで忘れてしまいそうになるけど、まだ高校1年生なんだ。あたしより年下でこの間16歳になったばかりで。
あたしばっかり甘えてちゃ駄目だ。帝君を支えられるほど強くならなきゃ。
心中で決意を固めながら、しばらく彼の手触りのいい黒髪を撫でていると、
「・・・茉莉に慰められるなんて、癪だ」
突然帝君があたしを放してそっぽを向いた。
急な事に驚きながらもその仕草が子供っぽくて可愛らしくて思わず噴出してしまう。
すると、益々帝君は決まり悪そうに頬を赤らめるとソファに顔を埋めた。
「今の俺、おかしい。きっと寝てないせいだ・・・こんな事言うつもりなかった」
「どうして?たまには弱音吐いてよ。言ってくれなきゃ分からないのはあたしも同じなんだから」
「・・・急に年上ぶりやがって」
「え?」
帝君が何か言ったみたいだけど、ソファにくぐもってよく聞こえなかった。
あたしとしてはもっと彼の心中を知りたいと思ったのに、ソファから身を起こした帝君はいつものポーカーフェイスに戻っていた。
「とにかく、茉莉、お前は御影流架に連絡を取れ」
「は?」
「彼氏のふりをしてもらえ。奴なら協力してくれるだろ」
「ど、どうして!?」
あたしは流架君をパーティに呼ぶつもりは無かった。用事があるらしいと言う事にして誤魔化すつもりだった。
それに、ママ達に彼氏だと紹介したりしたらそれこそややこしくなるんじゃないの。
「調査すればお前達が付き合ってない事はすぐにバレるだろう。そうなれば婚約話が出てくる事は必至だ。それに、御影流架なら顔見知りだし協力しやすい。最近付き合い始めた事にすれば怪しまれないはずだ」
「え・・・」
「俺達が付き合っている事のカモフラージュにもなる。二人が日本にいる間の辛抱だ。海外へ行ってしまえば情報操作も出来るから」
調査とか情報操作とかカモフラージュとか、何だか良く分からない単語の連続にあたしの頭にはクエッションマークが飛び交っている。
首を傾げるあたしを見て、帝君は呆れたのか眉根を寄せたが特に文句を言う事はせず、砕いて簡単に説明してくれた。
「つまり、お前は御影流架に彼氏役を頼んで上手く周りを騙せって事だ。しくじるなよ」
大丈夫、とすぐに自信を持って頷けない。嘘をついたのはあたしなんだから仕方ないんだけど、騙すと言う行為に罪悪感を感じる。
だけど、失敗したら婚約者を決定されるかもしれない。それだけは嫌だ。ならば、手段を選んでいる場合じゃない。
「・・・やるわ」
緊張交じりに言うと、帝君の口元に悪魔の笑みが浮かんだ。
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